*** 鳥獣保護管理員 ***

鳥獣保護員・エトロフ小林の 『落書き帳』 第8回 籠で鳴(泣)く子 ・ 最後の二羽
 ごきげんよう。エトロフです。
それにしても暑い夏でした。皆様、お元気に乗り越えられましたでしょうか?

今回は、自宅(さいたま市見沼区)付近で見つけた違法飼養の例です。

 問題の家は、近所も近所、自宅から歩いて5分もかからないところにありました。古い2階建ての家屋に、ユズやツツジ、南天などが所狭しと植えられた小さな庭。

 春のある朝、何気なくその家の前を通りかかったとき。驚くほど大きなメジロのさえずりに、思わず足を止めました。その時点では、違法飼養なんて思いつきもしません。バードウォッチャーとしてごく自然に、元気にさえずるメジロに会いたいな、と思っただけでした。

 庭木のどこかにいるのだろうと思い、姿を探しました。双眼鏡はなかったのですが、肉眼でも見つけられそうなほど、すぐ近くで声がしますが・・・ちらりと動く影さえ見えません。相変わらず続くさえずり。しかも、聞こえてくる方向が全く変わらない。

 ここで初めて「おかしい」と気づきました。突き止めなくては!軒先には鳥籠らしいものは見当たらず。2階のベランダはシートに覆われて、様子がわからないが、いかにも怪しいじゃないか。いや、鳥の声のCDかもしれない・・・いずれにせよ、こんなところでウロウロしていると、こちらが不審者として通報されそうだ。ひと先ずその場を離れ、数分後、また現場へ。さえずりは続いていました。それも1羽や2羽ではないようです。

 ここまで来たら、放っておくわけにはいかず、埼玉県庁のみどり自然課と中央環境管理事務所へ連絡しました。そして数日後、環境管理事務所の担当者2名とともに、問題の家を訪れました。

 呼び鈴に応じて出てきたのは、70歳代とみられる小柄な男性。「こちらでメジロを飼っているらしいと通報があったのですが?」と聞くと、表情を変えることなくうなずきます。法律違反をしているという意識は全くないようです。見せてほしいというと、「ああ、いいよ」と気軽に家に入れてくれました。部屋の様子から、一人暮らしであることが見て取れました。
 
 案内された2階のベランダの隅に鳥籠。大きさは家庭用冷蔵庫の半分ぐらい。ベランダの周囲がシートで覆われていたため、外からは全く見えなかったのですが、かなり大きなものです。 その中で、十数羽のメジロが落ち着かない様子で飛び回っていました。


 聞けば、「庭木にメジロがよく来るので、落としかご(*)をしかけてみたら簡単に捕まる。おもしろくなって、何羽も捕った」とのこと。担当者が、現在では野鳥の飼養は法的に禁止されていることを伝え、「この場で放鳥していただけますか」と尋ねると「ああ、いいよ」とあっさり承諾。大切に飼っていたのかと思ったら、意外に執着しないので少々、拍子抜けしました。“Easy come, easy go”(容易に手に入れたものは容易に手放す)

 鳥籠が開かれると、中にいたメジロたちは出口へ我先にと突進し、ベランダを飛び立っていきました。数羽は庭木へ、数羽は道路の向こうの緑地へ・・・ところが、籠の奥の止まり木に、まだ2羽が残っています。何が起こったかわからないのか、寄り添い合ってじっと動かない。すると元・飼い主が不機嫌そうにひとこと、「お前らが籠の前にいるから、怖がって出られないんだよ」 今まで表情ひとつ変えなかった彼が、ちらっと見せた反抗でした。「ほら、出ていけ!」と、手近にあった棒で止まり木を軽く叩くと、残った2羽はようやく飛び立ち、道を越えて緑地のほうへ消えてゆきました。

 その姿を目で追いながら、ふと思ったこと。「籠から追い出した鳥が外に出たとたんに、猛禽や猫に襲われたら?」 少なくとも元・飼い主は「あのまま籠に入れておけば、もっと長生きできたのに!余計なことしやがって」と激怒するでしょう。放鳥させた私達は、“複雑な気持ち”どころか、「しなければよかった」と苦い思いをするでしょう。

しかし、鳥たちは、どう思うんだろう? 喜び勇んで出て行った鳥たちはともかく、外に出るのを渋っていたあの最後の2羽は?

 人間に飼われて長生きするのと、自然界で、場合によっては子孫を残すこともなく短い一生を終えるのと、野生動物にとって、どちらが幸せか?  私たち人間に、彼らの価値観が想像できない限りは、やはり、自然のままに置いておくべきなのでしょうが…
その辺を、もうちょっと、こう、うまく表せる言葉がないのかなぁ…エトロフの悩みは続きます。

*:鳥を捕獲するための籠。2段構造で、下の段におとりや餌を入れて、鳥をおびき寄せる。

各環境管理事務所の連絡先は、以下をご参照ください。
http://wbsj-saitama.org/kankyokanri_office.html
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