*** 鳥獣保護管理員 ***

鳥獣保護員・エトロフ小林の 『落書き帳』 第3回 嵐のような一日(前編)
ごきげんよう。エトロフです。

 前回、鳥獣保護管理員の職務について、ざっくりとご紹介いたしましたが、どれも地道に地味なことばかりです。地味で地味で、地味にすごくないです。しかし、「時には嵐のような激しい一日が訪れることもある」(*)のです。
*:フジカラー1970年代のCMソングの一節。作詞作曲・吉田拓郎、歌は沢田研二。覚えている人、いるだろうか?

 嵐が訪れたのは2017年12月26日。午前10時ごろ、“岩槻の親分”O氏から電話。「蓮田市の畑にアホウドリみたいなのがいるけど、どうしたらいい?」 はい?アホウドリ?蓮田に? 親分、もしかして昨日の夜から今まで、飲んでましたか? 「違うよ~!とにかく来てよぉ~」ん?真剣に困ってる。どうも幻覚ではないらしい。興奮気味の親分の話を、県のみどり自然課や東部環境管理事務所に伝え、現場に急行した。

 現場は蓮田市の北西部、伊奈町との境近く。すでに東部環境管理事務所のT.S氏と野鳥の会埼玉の仲間3名が到着していた。問題の鳥は?と見回すと、県道の脇の畑に、何やらでかい塊が…うわっ!居たっ!クロアシアホウドリ! 
     
  クロアシアホウドリ Phoebastoria nigripes ミズナギドリ目アホウドリ科アホウドリ属。絶海の孤島で繁殖し、非繁殖期は海上で暮らす。2mに及ぶ長い翼を広げて、洋上に大きな弧を描く。その姿を双眼鏡の視野に捉えたらもう、目が離せない。何度見ても魅了される航路ウォッチングのスター!…そんなお方が、海なし県の畑にうずくまっている。前日に海上を通過した低気圧のため、思うように飛べず食べられず、ここまで来てしまったのだろう。なんだか見てはいけないものを見てしまった気分。先方も困り果てている様子。O親分ならずとも「どうしたらいい?」と言いたくなる。

 とりあえず捕獲しましょう、と T.S氏が巨大な網を手に、一歩一歩近づいていく。私たちも後を追うが、あのでかい翼で暴れられたら大変なこっちゃ…と思っているらしく、皆、なんとなく腰が引ける。ところが、T.S氏の網の一振りで、あっけなく捕まってしまった。用意したボール箱に、ほとんど抵抗せずに収まる。困り果てていただけではなく、疲れ果ててもいたらしい。
     
  すぐ目の前のクロアシアホウドリ。優しい黒い瞳。艶やかな羽毛に覆われた、頭から首へ続く優雅なライン。思わず手を伸ばして撫でたくなるが、強大な嘴が、一切のペット的な扱いを頑として拒んでいる。その先端は鈎状に鋭く曲がる。己の命をつなぐために、他の命を奪う肉食者の嘴。箱を閉じる段階になって、この嘴で反撃を開始した。ガッガッと鈍い音とともに箱に穴があき、鈎の先端がちらりと現れる。正直、怖い。話し合いの通じない野生動物の怖さ。しかし、箱を持ち上げたら、なんとまあ軽いことか!鋭い嘴で武装はしていても、この悲しいほどの軽さ…飛ぶために進化した結果が、この哀れなほどの軽さ…鳥はやはり、守ってあげなきゃ、としみじみ思った。
 さて、外傷はないようなので、放鳥することになった。問題は、どこで放鳥するか? T.S氏「なるべく海に近い水辺がいいですね」 ということは東京湾のどこか? しかし、とにかく目立つ鳥である。人目が多いところだと、また発見されて、マナーに問題のある鳥見人とか?亀等男に追い掛け回されたり、いろいろと問題になりかねない。一刻も早く、ストレスフリーで、居るべき場所に還してやりたい・・・いろいろ検討した結果…「そうだ、波崎海岸へ行こう!」 

 こうして波崎海岸への旅が始まった。クロアシ君を守護するのは“越谷の空飛ぶ貴公子”K.S氏(*1)、“川口の親分”N氏。そして、輸送中に何かトラブルがあったときに備えて“印籠”(*2)を携えたエトロフである。 (後編へ続く)
*1:日本野鳥の会埼玉・会報『しらこばと』2018年5月号2-4ページ参照 *2:落書き帳第2回の写真参照 
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