*** 鳥獣保護管理員 ***

 鳥獣保護員・エトロフ小林の 『落書き帳』 第14回
ある参道の事件簿~ササゴイ一家強盗誘拐事件

ごきげんよう。エトロフです。

 若いころは夏が大好きでした。天気図を見て、太平洋高気圧の勢力が日に日に拡大してくるのを見るとワクワクしました。冷房も使わず、750mlの特大缶ビールを飲みながら激辛カレー。暑いの大好き、夏サイコ―!

… などと盛り上がっていた時代は過ぎ去りました。特大サイズの缶ビールも、店頭から消えてから久しいですね。あっても、もうそんなに飲みたくない。最近は太平洋高気圧の“クジラの尾”がしぼむのを、今日か明日かと待っています。

 県内でも屈指の、ある大きな神社。ケヤキの大木に縁どられたその参道は、猛暑日でも涼しい風が吹き抜け、参拝客の他、近所の皆さんも涼を求めてやってきて、ベンチで読書や昼寝を楽しんでいます。そして、また別の目的で集まる人々も…エトロフもその一人です。この夏は何度、この参道に足を運んだことか…そこで出会った鳥の世界のちょっとした事件を紹介します。

 春から夏へ変わるころ、この神社に隣接する公園の池で、ササゴイを見たという情報がありました。このエリアではひじょうに珍しいことです。おそらく渡りの途中に立ち寄った個体でしょう。…と思っていたら、同じエリアでまた新たなササゴイ情報が! そしてついに7月中旬、参道でササゴイが営巣!というニュースが駆け巡りました。

 参道沿いのケヤキの高所に架けられた、枝を重ねただけの雑な造りの巣。多くの人がキジバトの巣だと思っていたこの巣の主が、ササゴイだったのです。こんなところに作るんだ~!と。まず驚きました。これまでエトロフが見たササゴイの巣といえば、渡良瀬遊水地、入間川、浮間公園。すべて水辺にあるものだったからです。改めて地図を見ると、目撃情報のあった近くの公園の池までは、巣から約500m。彼らにとっては、許容範囲だったのでしょう。

 最初に巣を見に行った7月23日。巣の周りにいた皆さんの話によると「ヒナが2羽いる」とのことです。双眼鏡で探しましたが、ヒナらしい姿はちらっと見えただけでした。巣のすぐ近くでは剪定作業の準備が進んでいました。そこで参道を管理している神職の方と作業員に、ササゴイの巣があってヒナが生まれているので剪定の際に注意してほしいと、お願いしました。作業員の方は慣れたもので「鳥の巣の場所はわかっているので、気をつけて作業しています」。以前、タカ(おそらくツミでしょう)の巣の近くでの作業中に、親鳥に攻撃されて怪我をしたことがあり、それから気をつけているとのことでした。

 その午後から剪定作業が始まりましたが、エトロフは他の用事があり立ち会えませんでした。聞いた話では、近くでチェーンソーの音が響くと、やはりササゴイは落ち着かなくなったそうです。「ヒナが巣の中でバタバタしていた」「一羽は巣を飛び出してしまった」ということです。

「手前:カルガモ、奥:ササゴイ成鳥」  
 写真提供:染井拓海氏

 7月26日、再び巣を訪れました。双眼鏡でのぞくと…あ~よかった。巣の中に一羽。親鳥のようでした。ヒナの姿は見えなかったのですが、親鳥が在巣ということは、営巣放棄していないということ、と安堵した瞬間。

 後方から一羽の鳥がササゴイの巣に突っ込んできました。

 その大きさはカラス大。でもカラスじゃない。背は黒っぽいけれど腹部が白っぽい。この配色はオオタカ成鳥!

 巣に座っていた親鳥はギャッと叫び、体を動かしました。蹴られたのかもしれません。次の瞬間には、オオタカは巣を飛び立っていました。その趾に、何やら濃い灰色のフワフワした塊をしっかりとつかんで。そして、神社の杜のほうへ飛び去って行きました。 

 一部始終を目ではしっかり追っていたものの、頭の中は混乱していました。「オオタカがササゴイの巣を急襲し、ヒナをさらっていった」という事実を受け入れることを頭が拒否している、そんな感じでした。

 そのオオタカは神社の杜で今年営巣し、3羽の幼鳥を育て上げたあのペアの雄親のほうと思われます。この春は、彼らの繁殖の成功をどんなに願ったことか。心配で心配で何度も様子を見に行き、遠くから元気でいるのを確認すると、ほっとして帰路についた日々…

 何とも複雑な気持ちでした。オオタカもササゴイも、どっちも無事に育ってほしい。それでもやはり、被食者と捕食者。これが自然界の「リアル」。しかしそれを目の当たりにすることの衝撃が、これほど大きかったとは…

 残るもう一羽のヒナも、やはり同じ時にオオタカにさらわれてたそうです。結局、ササゴイの参道での営巣は失敗に終わったのですが…

 事件からおよそ20日後の8月12日。最初にササゴイが目撃された公園の池で、またササゴイの目撃情報がありました。その個体は、首から胸にかけて縦斑が目立っていたというので、幼鳥だと思われます。
 
 もちろん新たに目撃されたササゴイ幼鳥は、この事件とは無関係の個体かもしれません。 しかし、これまでほとんどササゴイの記録がないエリアである。その近くで、今年は直前までササゴイが営巣していた。
 という2点から考えてみると…

2羽と思われていたヒナが、実は3羽で、1羽は難を逃れていた?
という可能性はありえないでしょうか? そもそもヒナが何羽いたのか? 地上十数メートルの巣の中の状況は、誰も正確に把握できていません。

さて、この事件。解釈はあなたは次第です。 ハッピーエンドが好きなエトロフは、望みを捨てていません。

各環境管理事務所の連絡先は、以下をご参照ください。
http://wbsj-saitama.org/kankyokanri_office.html
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