*** 野鳥観察の部屋 ***
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モンゴルで拾った羽根の落とし主は?(第3報*) |
2019-08-25
蓮田市 長嶋宏之
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始めに
- 7月14日(日)に開催された室内講座「野鳥の羽」は参加者数が予想を超え、大盛況だったときく。羽根に興味を持っている一人として、羽根に興味をもつ仲間が増えることは、この上なく嬉しい。
この度、モンゴル旅行において友人が拾得した羽根の落とし主をあれこれ考えてみたので報告する。
本稿では明確な落とし主は解らずじまいの結論になってしまったが、羽根に興味を持つ仲間に共に考えて頂ければ、幸甚である。
- *モンゴル旅行へ同行した方などへ同様の内容を報告済みです。今回はホームページ用にアレンジし、第3報としました。
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写真1:拾った羽根(表側) |
写真2:拾った羽根(裏側) |
(1) 拾得条件
- 拾得者:高 文子様 年月日:2019年6月8日
場所:Mongol国 Sukhbaatar 県 Khalzan村 (N46.1599 E112.9192 の付近)
(2) 羽根の特徴
- ①寸法
全長:240mm 最大幅:57mm 外弁幅:19mm 内弁幅:39mm
②色
(イ)表側 写真1
外弁:茶褐色の地に形が崩れた薄い白斑が3ヶ所。
内弁:白地に茶褐色の横縞7本。ただし先端25mmは茶褐色。
- 横縞は先端から羽柄に近づくに従い、内弁幅の8割から4割に徐々に減少。
羽軸:白。ただし、先端の50mmは褐色。
(ロ)裏側 写真2
外弁:淡褐色の地に形が崩れた薄い白斑が3ヶ所。
内弁:白地に淡褐色の横縞が7本。ただし先端25mmは淡褐色。
③外観
(1)先端が丸く、尖っていない。
(2)特に外弁の先端の摩耗が激しい。羽軸を挟んで内弁の先端も摩耗している。
(3)半綿羽状の羽糸が特に外弁に多くあり、内弁にもある。
(4)羽軸が大きく右に湾曲している。
(5)羽軸が硬く、しっかりしている。
(6)フクロウ類の羽根にある、羽枝から生えている短毛はない。
(3) 羽根の特徴から考察できること
- ①長さと幅のアスペクト比から、大型(アオサギ、オオハクチョウ、ミサゴ、トビ、ノスリ、チュウヒ、フクロウ等)の鳥と思われる。・・・・図鑑1参照
②アスペクト比や羽軸が大きく湾曲していることから、S1、2またはP1、2と思われる。
③アスペクト比から、ゆったりと羽ばたきながら飛ぶ鳥と思われる。
④外観の(1)と(2)から、成鳥から抜け落ちた羽根と思われる。
⑤外観の(6)からフクロウ類ではない。
⑥表面の外弁が茶褐色なことから、羽を閉じたときの外観は茶褐色~濃褐色に見えると思う。
⑦裏面の全面が淡色なことから、翼を広げた時、下から見るとかなり白っぽく見えると思う。
(4) 推察できる羽根の落とし主
- (3)の考察から、アオサギ、ハクチョウ類、フクロウ類は除いて良いだろう。
残りは猛禽類になるのだが、その中で、拾得場所の東モンゴルに分布する鳥を挙げて、
- 特徴を比較すると下表になる。
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図鑑4の頁 |
種名 |
判定 |
理由 |
118 |
ワキスジハヤブサ |
X |
(3)の③ に該当しない |
120 |
ミサゴ |
△ |
似ているが、決め手に欠ける。資料が少なく判定不可 |
120 |
ハチクマ |
X |
表側の横縞が不一致 図鑑3 頁85 |
120 |
ハヤブサ |
X |
表側の横縞が不一致 図鑑3 頁111 |
122 |
トビ |
X |
(3)の⑦ に該当しない 図鑑2 頁41 |
124 |
キガシラウミワシ |
X |
(3)の⑦ に該当しない 図鑑5 PLATE50 464 |
124 |
オジロワシ |
X |
(3)の⑦ に該当しない 図鑑2 頁60 |
126 |
ヒゲワシ |
X |
(3)の⑥ に該当しない 図鑑4 頁127 |
126 |
クロハゲワシ |
X |
(3)の⑦ に該当しない 図鑑2 頁241 |
128 |
ヨーロッパチュウヒ |
X |
東モンゴルに分布しない 図鑑5 PLATE51 476 |
128 |
チュウヒ |
X |
図鑑1頁82は♂・AのS2であるが、横縞の数・羽軸の色が異なる |
128 |
ハイイロチュウヒ |
X |
♀AdのS5だが、羽根の模様が異なる 図鑑2 頁546 |
130 |
マダラチュウヒ |
X |
♀AdのS5だが、羽根の模様が異なる 図鑑2 頁552 |
134 |
サシバ |
X |
図鑑1頁77はU・J(一部A)のS1だが、長さが172mmで短い |
136 |
ノスリ |
X |
図鑑6頁99、次列 ”色に差あり”とあるが、内外弁に横縞有。206mm、55mm |
136 |
ケアシノスリ |
X |
図鑑1 ポスターに次列が載っているが、全長193mm |
136 |
オオノスリ |
△ |
写真7-1の次列の横縞の数や形など不一致。写真9と一致 |
138 |
カラフトワシ |
X |
図鑑2 頁200 次列は黒褐色(3)の⑦に不一致 |
138 |
ソウゲンワシ |
X |
(3)の⑦ に該当しない |
138 |
カタジロワシ |
X |
図鑑2 頁525 下面が黒褐色 (3)の⑦に不一致 |
138 |
イヌワシ |
X |
(3)の⑦ に該当しない 図鑑3 頁104 |
140 |
ヒメクマタカ |
X |
下面の次列部は暗色で(3)の⑦ に該当しない 図鑑4頁141 |
上記の表から、羽根の落とし主に該当する鳥はミサゴとオオノスリが挙げられる。
これに気になるケアシノスリを加えて、さらに詳しく検討を試みた。
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<下面の黒い鳥の例>
写真3 : ソウゲンワシ
英名:Steppe Eagle
学名:Aquila nipalensis
2019-06-05 モンゴル ヘンティー県 ビンデル村
筆者撮影
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<ミサゴ>
英名Osprei 学名 Pandion haliaetus haliaetus
写真4 : 左 モンゴルで拾った羽根 写真1と同じ。
右の3枚 図鑑7 頁203 ミサゴのS1 S9 S17
コメント1:図鑑7の羽根は1Wの若鳥で生別不明
S1は全長221mm 幅38mm、S9は全長210mm 幅43mm。
S1、9ともモンゴルで拾った羽根よりも一回り小さい。
外弁の色が濃いことや大きさが小ぶりなのは♂1W
だからかもしれない。 内弁の白い地色、横帯の数は写真1と似る。また日本のミサゴとモンゴルのミサゴは同じ亜種のようである。しかし成鳥、♂♀の羽根の写真または図を入手できなかったので、これ以上の検討は進められなかった。
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<ケアシノスリ>
英名 Rough-legged Buzzard
学名 Buteo lagopus lagopus
全長45~62cm 翼開長120~153cm
写真5 : 左 モンゴルで拾った羽根
右 ケアシノスリ 次列 S 図鑑1 ポスター
コメント:2 図鑑1に載っている羽根の性、成鳥・幼鳥など不明だが、写真1よりも明らかに短い。 |
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写真6:オオノスリ 2018-05-26
西モンゴル・ボブド 山部氏撮影 |
写真7:オオノスリ 2012-06-27
ホスタイN.P. 筆者撮影 |
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写真7-1:写真7のPとSの部分を拡大 |
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図1:図鑑2 頁499 オオノスリ
成羽 Ad S5 と 幼羽 Juv S5 [ 次列風切 ] 図鑑2 頁500
初列風切の内側羽と同様であるが、暗褐色の横斑はしばしば外縁にまでおよぶ。三列風切も同様でるが、横帯が不明瞭である。下面はバフ白色で、上面と同様のパターンが出るが、暗色部は暗灰色または暗灰褐色である。暗褐色横帯は内外弁に3~5本ある。
コメント3:写真7-1や図1に示されるように、オオノスリの風切羽には4~5本の暗褐色の横帯が内外弁ともに認められる。しかし、写真1の外弁には暗褐色の明確な横帯は認めらない。内弁には6~7本の横帯が認められるが、光を透過させても外弁には暗褐色の明確な横帯は認められない。
従って写真1は写真7-1や図1とは一致ぜず、オオノスリの羽根と無条件には認められない。
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コメント4:オオノスリは研究が進んでいないためか、世界に1属1種で亜種はいないとされる。
したがって、日本に飛来するオオノスリもモンゴルのそれも同じであると考えられ、図鑑2の記述内容はモンゴルのオオノスリにも当てはまると考えられる。
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写真9:菱沼氏提供(全長211mm 幅59mm )
1~2年前、友人Aがモンゴルから持ち帰った羽根で、オオノスリの羽根とのこと。
筆者が友人Aに確認したところ、”カラカラに乾燥した死体を見つけ、現地案内人や同行者ら皆でオオノスリと判断し、死体から引き抜いたものと記憶している”とのことでした。
全長は写真1の方が19mm長いが、写真1と写真9
は酷似している。
コメント5:今年、我々を案内した現地案内人のオトゴーさんに問い合わせたところ、オオノスリ説を伝えてきた。
しかし、その根拠は伝えてこなかった。
また、旅行中に立ち寄った khurkh bird ringing stationのバンダーのTuvsheeさんは下記のように伝えてきた。
I think this is feather of a upland buzzard. I think it may be different
from the variation of species. It is difficult to identification only a
feather. |
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(5)まとめ
- 拾得した羽根の落とし主はミサゴまたはオオノスリと思われるが、その根拠が今一で、どちらとも断定できない結果になった。今後、オオノスリやミサゴの研究が進み、図鑑等で羽根の特徴がより詳しく公表されれば、今回モンゴルで拾った羽根の持ち主がはっきりすることと思う。
- この羽根の落とし主について、今後も継続して検討していきたいと思っている。この羽根について、何らかの知見をお持ちの方は、ご指導頂けるとありがたい。
また、写真1や写真9の羽をもつ野鳥の写真をお持ちの方はご一報を頂けるとありがたい。
- 末尾になったが、羽根を提供してくれた高 文子様、写真を提供してくれた菱沼一充様、山部直喜様、コメントを寄せてくれた友人A様に感謝申し上げる。
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(6) 使用した図鑑
- 図鑑1 羽 原寸大写真図鑑 高田 勝・叶内拓哉 文一総合出版 初版発行 2004年2月
図鑑2 日本のワシタカ類 森岡照明他 文一総合出版 第2版第1刷 1998年7月
図鑑3 改訂新版日本の野鳥 羽根図鑑 笹川昭雄 世界文化社 初版発行 2001年9月
図鑑4 BIRDS OF EAST ASIA MARK BRAZIL PRINCETON
図鑑5 A Field Guide to the Birds of China John MacKinnon OXFORD
- 初版2000 再版2006
図鑑6 決定版 日本の野鳥羽根図鑑 笹川昭雄 世界文化社 初版発行 2011年9月
図鑑7 原寸大写真図鑑 羽 増補改訂版 叶内拓哉・高田 勝 文一総合出版
初版発行 2018年10月
図鑑8 ワシタカ・ハヤブサ識別図鑑 真木弘造 平凡社
図鑑9 新訂 日本鳥550 山野の鳥 五百澤日丸他 文一総合出版
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以上 |
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