*** 野鳥の鳴き声を楽しもう No12 【モズ】 ***
報告: 大井 智弘

はじめに
 2020年の8月は暑かった。それを裏付けるように気象庁から、東日本の8月の平均気温は平年より2.1度高く、戦後の1946年以降で最も暑い8月であったと発表された。しかし、暑い夏であっても例年通りシギ・チドリ類の秋の渡りがスタートし、また、7月の夕方、さいたま市で見られていたツバメの集団ねぐら入りは8月末には見られなくなり、めっきりツバメの数が減ってきた。
 そんな中、立秋が過ぎた猛暑日の8月14日、芝川第一調節池でモズの鳴き声が聞こえてきた。「もう高鳴き? 11秒」とは思ったが、鳥の世界ではすでに秋なのだ。
今回は、秋の風物詩とも言えるモズの高鳴きを中心にその生態と鳴き声を紹介したい。
 1 モズ(百舌)スズメ目モズ科モズ属 全長:20cm
 モズは樹木が生い茂った場所ではなく、明るい開けた林、草原、河川敷などに広く生息する留鳥または漂鳥である。杭や木のてっぺんや横枝などに留まるので比較的観察しやすく、雄と雌の見わけもわかりやすい。
 写真①の雄は過眼線が黒く、折りたたんだ翼の一部に白斑がある。写真②の雌は過眼線が茶色で、胸から腹にかけてはウロコのような細かな模様があり、翼には白斑がない。
【写真① ♂】2019年3月埼玉県さいたま市 【写真② ♀】 2018年1月埼玉県さいたま市 
 2 モズの鳴き声
 モズの繁殖は平地で早いものだと2月頃に始まる。そして春になると親鳥達は若鳥を残し山地に移り、2度目の繁殖を行い、秋になると平地に戻ってくる。秋から冬は単独で暮らすモズにとって冬の食物獲得のためのなわばりの確保は重要で、そのため雄も雌も老いも若きも、9月初め頃から高鳴き(なわばり宣言)を繰り返す。なわばりに侵入してくるものがあれば、時には取っ組み合いになって戦う。また、いいなわばりを持っていることは雄にとっては春になって配偶者を得るためにも重要なのである。11月にはなわばり争いは終わり、高鳴きを聞く機会も減ってくる。
【写真③④】 2018年5月 埼玉県さいたま市 モズ親子
◎高鳴き:「ギー、キィーキィー、キチキチキチ、キュンキュン」などと挑戦的な鳴き声
 【録音①】 2019年10月 埼玉県北本市  24秒
 【録音②】 2019年9月  埼玉県さいたま市  64秒 
2羽がいがみ合うように高鳴きと警戒音を発している

◎警戒:「ギチギチギチギチ」などと繰り返し鳴く
 【録音③】 2020年8月  埼玉県さいたま市  38秒

◎さえずり:「ぐぜり」声で繁殖期に他の小鳥のさえずりを真似したフレーズを入れて歌う
     ※ メジロ風の声を聞いたことはあるが、録音できていていない
 
 昔の人は、「モズの高鳴き七十五日」といい、モズの高鳴きを初めて聞いてから75日目に霜が降りだすとして、農作業の目安にしている地域があったとのことである。ちょうど8月中頃に高鳴きを聞き、11月の初めに高鳴きが聞こえなくなる頃に霜が降りる時期を表したと思われる。
 モズに関する他のことわざには、次のようなものがある。
  ・モズ(百舌鳥)の高鳴きは晴天の兆し(千葉・富山・高知・福岡)
  ・モズ(百舌鳥)の高鳴きは七十五日の上天気(広島)
  ・モズ(百舌鳥)が来るとその年はもう大風がこない(熊本)
  ・モズ(百舌鳥)が鳴き始めると風が吹かない(愛知・奈良・福岡)
  ・モズ(百舌鳥)が早く鳴けば、早く寒さ冬が来る(滋賀・大分)
  ・モズ(百舌鳥)が鳴くと雪が降る(岐阜)
    参照サイト:「観天望気いろいろ」“鳥にまつわる天気のはなし”
   http://www.mitene.or.jp/~sorayume/kantenbouki_04_bird.html
3 モズの「はやにえ」と早口さえずりの関係
 モズはかぎ状の嘴をもち、昆虫から小鳥(スズメ、シジュウカラ、ホオジロなど)までを襲う小さな猛禽のような鳥である。そして、捕らえた獲物を小枝や有刺鉄線などに刺したり、小枝の股に押し込んで放置しておく「はやにえ」は高鳴きとともにモズの行動の特徴の一つである。
 モズが「はやにえ」を行う理由には以前から諸説がある。例えば、①なわばり説、②殺りく本能説、③食べ残し説、④引き裂き固定説、等がある(参照資料『BIRDER』2019年12月号)。 

【写真⑤ ♂】2019年3月埼玉県さいたま市
 昨年、大阪市立大学と北海道大学の共同研究によってモズのはやにえの新仮説の検証結果が報告された。結論を簡単に言えば、「はやにえ」を多く食べることができたオスほど、栄養をたくさん摂取できて繁殖期に早口でさえずれるようになり、そのようなオスほどメスにモテることがわかったとのことである。
 今後もモズの鳴き声と「はやにえ」の関係についての研究に注目していきたい。

【関連サイト・雑誌】
(1)大阪市立大学
「モズの『はやにえ』の機能をついに解明!はやにえを食べたモズの雄は、歌が上手になり雌にモテる」
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2019/190513

(2)YAMAKEI ONLINE(ヤマケイオンライン)
「かわいい顔だが「肉食系」のモズ。「はやにえ」は早口で歌うために欠かせない行動だった!」
https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=549

(3)『BIRDER』2019年4月号 文一総合出版 「はやにえを食べたモズは歌が上手になる?」

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