*** 下を向いて歩こう♪ - 私の羽日記(抄)- ***
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近藤龍哉
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12月3日(木曜日)
9時、丸山公園へ。どんよりと曇って、寒い。大池の南端から見渡していると、水面をカワセミがこちらに向かって飛んでくる。かなりのスピードで来て、急に左に向きを変えて橋の下へ消えた。その向こうは修景池だが、修景池側には金網が張ってあって抜けられないはずだ。大丈夫か。双眼鏡で確認したが金網に隙間はなさそうだ。いったいどこへ消えた?少し移動してスコープで覗いてみてわかった。薄暗い橋の下、金網の手前のコンクリートの上にカワセミは止まっていた。こんな暗いところでいったい何をする気だろう。
曇天ながら鳥の姿は案外多い。ツグミもシメも数羽の群れで梢近くにいる。今季から釣りが禁止された大池にはカイツブリの数が多い。一体何羽いるのだろう。十羽はいそうだ。遠くでいま潜ったのはカイツブリにしては大きい。といってカワウほど大きくはなかった。とりあえずそちらへ急行。キンクロハジロ♂♀だった。久しぶりだ。ここの大池の水深はさほどではないが、時折潜水系のカモも滞在する。今季ずっといてくれるといいな。
アオジやジョウビタキを期待して湿地の方へ進む。何か移動したが……よく見るとモズだった。と、足元の落ち葉に紛れて、羽がおちている。かがんで拾おうとしたら、他にもある。道路から一段下の草地にも。こういう時は、残さず拾う。ずいぶん薄い羽だ、メモ帳の字が透けて読める。初列が3枚、次列が2枚、尾羽が6枚、それに体羽も3枚。これで全部かな。ここは一般の車は通らないから、猛禽にやられたのか。食痕だとしても、散らばり方が広いのは、時間がたっているからか、枝の上でむしられたからか。
さて、これはいったい何の羽か。初列は75ミリ前後で、ムクドリよりはずっと小さい。内弁の羽縁から根元の羽軸の方へ白っぽい細い三角ができている。ちょっとヒヨドリに似ているが、ずっと小型だ。そして、決め手は薄茶色の尾羽だ。95ミリと長く、幅は一番広いところで10ミリ足らずで細い。そして、この薄さ。これはモズだ。そして初列の根元の近くが白くないので、紋付はなく♀。雄の紋付のように見える白斑は、初列のやや大きな白斑の重なりなのだ。それに尾羽の色も♀のほうが薄い。モズは体長20センチとされるが、その半分は尾羽の長さで、わりに体の小さい鳥である。
と、偉そうに書いたが、実はモズの羽を手に入れたのは最近のことで、去年先輩のI氏からいただいたのが最初。それも丸ごとである。たぶん交通事故だと思うのだが、尾羽が抜けてしまって4枚しかなく、剥製にはできなかった。自己流で翼標本にした。私のコレクションの記念すべき100種目だ。今年の2月、よく羽をくれるOさん(ヤマドリもそうだった)からも丸ごとのをいただき、同じように翼標本として処理した。翼標本にすると、一枚ずつをためつすがめつ見るという楽しみがなくなる。これはバラで保存するからいろいろ楽しめそうだ。
前の二回の時には、じつは、寒冷紗で包んで地面に埋め、後で取り出して骨標本とするのを試みたが、いろいろ不備が生じた。とはいえ、最初のでは、頭蓋骨が陥没していることがはっきりした(交通事故の証拠か)し、次のでは、嘴の鋭い鉤を形成している鞘の部分をなくさずに保存することができた(鉤の形の部分は実は骨ではないのだ)。まあ、少しずつ進歩はしているつもり。
写真1 丸山公園で拾ったモズの羽 左から初列、次列、尾羽、上に体羽 |
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写真2 上、2019年9月、春日部市にてI氏採集のモズの翼
下、2020年2月、宇都宮市にてOさん採集のモズの翼 |
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12月26日(土)
朝食後、レンジフードと換気扇の掃除。その後、給油を兼ねて外出、秋葉の森総合公園で鳥見。なんと、ここでヒクイナを見た。写真は撮れなかった。そのあとノスリをゆっくり観察。ノスリが長く居座るので、帰るに帰れず、お昼に戻ると言って出たのに、一時過ぎになってしまった。昼食後、パソコンに向かっているところへAさんから電話。今、大宮第二公園のすぐ近く、愛犬と散歩の途中で、路上に鳥の死体を見つけたとのこと。ツミかハイタカのどちらか。そばにムクドリの死体もあるとのこと。
取るものも取りあえず急行することにした。頭の中を色々な考えが交錯する。道が空いていれば20分、混んでいれば30分かかるかも。必要なのはゴム手袋、ビニール袋とそれに……慌てていると、「落ち着いて!」と妻の一言。道路の空いていることを願うも、あいにくの片側通行あり。ワンちゃんを待たせてはかわいそう。
現場にはAさんが待っていてくれた。一人だ。ワンちゃんは?散歩は奥様と一緒だったので、連れて帰ってくれたとのこと。ほっ。路肩に駐車して目的のものを見る。白い下面に細い縞模様がきれいな個体。大きい。ハイタカかな。2、3メートル離れてムクドリ(見つけたのはこちらが先とのこと)。嘴が血に染まり、血が流れて血だまりとなっている。ハイタカに襲われたということか。で、ハイタカはなぜ死んだ?交通事故か建物への衝突か。すぐそばの2階建ての民家を見上げるが、それらしい痕跡は見当たらない。
Aさんに手伝ってもらって現場写真を撮り、二個体とも回収する。ムクドリの方は、まだぬくもりが残っているように感じる。生々しい血だまりは、Aさんがボトルの飲み物で流して目立たないようにしてくれる。帰りは急ぐ必要もない、工事中の箇所を避け、回り道をして帰る。
さて、どういう段取りにするか。この血だらけのムクドリまでは手が回らない、家族の目に触れないように先に始末しよう。庭の片隅に埋葬用の穴を掘って入れる。ところが土をかける段になってためらいが出た。思い返して、プラスチックの容器に入れて、浴室のタイルの上に置いた。
さてと、ハイタカだ。まず計測、全長38cm、ということは♀。♀の方が平均で7cm大きい。自室にビニールを敷いて、見分しながら撮影。ほとんど外傷なし。翼を広げても損傷なし。唯一喉元に、小さい穴が開いている。この穴はどうして開いた?銃弾か、矢か、何か鋭いものが刺さったみたいだ。羽を畳み、きれいに整え、家族の顰蹙を買わないように、丁寧に包んで冷蔵庫の冷凍室に入れる。
終わってムクドリに戻る。写真を撮るために頭と嘴の血を洗う。いい面構え、尖った嘴。はたと思い当った。突き刺さったのは、この嘴?瞬間、ゾクッと来た。これだ!偶然かもしれないが、ハイタカの死因はおそらくこれだ。流れていた血もハイタカのものか、死んだのもハイタカが先?ムクドリの姿が、英雄のように見えてくる。このまま埋められないぞ、残してやらねばと思った。だが、剥製にするのは負担だ。翼と尾羽だけを保存し、さきほどの穴に戻して埋葬する。嘴はあきらめた。保存の方法が思いつかないので。
続いて剥製会社に電話。が、出ない。もう5時すぎか。考えてみれば、もう仕事納めかもしれない。とりあえず状況だけはメールで伝えておく。
12月28日(月)
9時、朝一番に剥製会社に電話してみる。すぐU氏が出て明日29日までは営業中とのこと、すぐに梱包して冷凍便で送る。埼玉県は届け出の必要がないので助かる。
12月29日(火)
Aさんからハイタカの衝突場所がわかったとメールあり、PDFにして写真が送られてくる。あの民家の2階ベランダのガラス戸に体羽がくっついている。体羽の大きさからみてハイタカの衝突痕に間違いない。愛犬と散歩の途中、ふと見上げたら見えたとのこと。あの時は、家に近づきすぎていて見えなかったのだ。双眼鏡+スマホで撮った写真だ。これで衝突死だったことが確認された。
12月30日(水)
Aさんから、また写真が届いた。ずっと鮮明な写真だ。驚くことに、もう一つの痕跡を見つけたとのこと。昨日の写真は鮮明でないと、再度撮影しに行き、別のガラス戸に体液の付いたような痕跡を発見したのだ。今度はより重大な発見かもしれない。二羽が絡み合って衝突したのではなく、別々に激突したことを物語っているからだ。そして二羽の死体が少し離れて落ちていたこととも符合する。私の仮説はほとんど崩れ去ろうとしている。
12月31日(木)
朝、剥製会社のU氏から電話があった。U氏には、衝突現場が確認されたこと、2か所あることを報告し、ハイタカの喉の傷についてその深さや形状を教えてほしい、死因についても分かったら教えてほしい、と昨晩メールで依頼しておいた。
U氏の電話は、ハイタカは届いている、喉の傷は衝突の時に何か尖ったもの、角などにあたってできた跡だが、穴は開いていないし出血もない、死因は衝突死だろうとのことだった。私の、ハイタカに襲われて瀕死のムクドリの嘴が偶然とはいえ衝突の瞬間にハイタカに刺さって一矢を報いたという想像は、これで儚くも潰え去った。ムクドリは追われて逃げる時にガラス戸に嘴から激突、追っていたハイタカもほぼ同時に頭から少し離れたガラス戸に激突、ともに命を落としたということだろう。
Aさんのとことん実証を重んじる態度に敬礼!これらのことを、すぐAさんに報告したことは言うまでもない。Aさんからの返事のメールは「ハイタカの死因が分かって、スッキリしました。これで、心安らかに年が越せます」
妄想から解かれて冷静に考えてみる。なんということだ。これは生存競争の厳しさを表しているというのではない。生存競争はどちらかが生き残るということだ。両方とも死んだのは人工物が彼らの生存の脅威だということだ。心の中に何とも言えない感情が湧きあがった。
U氏には、今度だけは翼の美しさが際立つようなポーズにしてほしいと注文した。どんな剥製になるか、完成が楽しみだ。
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写真3 Aさん撮影の現場写真 |
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写真4 ハイタカ
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写真5 ムクドリ
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写真6 ハイタカの翼を広げるAさん |
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写真7 ハイタカの喉の傷
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写真8 ムクドリの頭部
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写真9 Aさんの撮りなおした衝突場所の写真 |
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写真10 衝突痕(左側)
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写真11 衝突痕(右側)
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追記 年を越して2021年1月10日の東京新聞に、「人工物の総量、自然を越える」という見出しで、小さな記事が載った。英科学誌ネイチャーに発表のイスラエルのワイツマン科学研究所のチームの試算によると、1900年から2020年までに人工的につくられた物と生物由来の物の量を推定して比較すると、見出しのようになったということだ。人間の作り出した物はすでに1兆トンを上回り、現在のペースで進むと、2040年までに3兆トンを超える見通しだという。人間の活動による影響の大きく急激なことを自覚させられる記事だ。
本シリーズは、ひとまずこれにて終了とさせていただきます。
ご愛読ありがとうございました。(近藤龍哉) |