*** 下を向いて歩こう♪  - 私の羽日記(抄)- ***
近藤龍哉

11月1日(日)利根大堰下見
 3日に予定している利根大堰(おおぜき)探鳥会の下見のため、朝7時半に家を出て行田市の元圦(もといり)公園へ。ここは見沼代用水の取り入れ口だ。他のリーダーと一緒に見る前に、自分の目で確かめたいと思って予定より早く来た。

 駐車場から利根川の土手に向かう小道で、羽を1枚見つける。15cmほどの黒っぽい羽だ。先端に円みがあり、内弁外弁ともにビロウドのような感じの黒さだ。羽軸が羽柄だけを残して元まで黒い。よく見ると外弁の根元付近に青灰色の薄く小さい斑が数個、羽軸近くに並んでいる。これでピンときた。カケスの尾羽だ。カケスの羽の白、青、黒のグラデーションの縞模様の美しさは誰をも魅了するが、それが見られるのは小翼羽や雨覆いのような小さな羽で、大きな羽では次列と一部の初列の外弁にのみ見られる。しかし、尾羽にもその名残のような痕跡のようなものがあるのだ。それにしても土手の下にカケスの羽とは違和感がある。カケスは森や林の鳥だからだ。しかし、以前この近くの小さな神社付近で鳴き声を聞いたことがあるから、近くの屋敷林などにいて、ここも行動範囲なのかもしれない。

 土手の上から30分ほど観察して約束の時間前に戻ってくると、駐車場にIさんが来ていて、顔を見るなり羽を1枚くれた。宮城県で拾ったのだそうだ。長さ12-3cm、ほぼ全体が茶褐色の羽で、先端が5mmほど白く、その境目が黒い。根元のカーブの具合からすると尾羽かな。以前に見たことがあるような気もするが。模様の無い茶褐色の羽。「コジュケイの羽に似ていますね。あとで調べてみます。」と言ったがちょっと気になる。Iさんからはこれまでもいろいろ羽をもらったが、どれもなかなか手に入り難いものが多かったから。

 そこへ朝早くから他所で鳥見をして来たSさんが、お仲間と一緒に合流して、ややにぎやかな下見になった。下見では、カモ類8種のほか久しぶりに多くの水鳥たちに出会った。ほかに、ミサゴやチョウゲンボウ、トビといった猛禽類にも出会えた。この頃あまり見ることのなくなったコサギがここにはたくさんいるのにも驚いた。予約制で少人数に限った新しい方式の探鳥会だが、鳥の出の方は多分大丈夫、せっかく参加したのにがっかり、というようなことにはならないだろう。

 一同で戻る途中、土手を下ったところで、またカケスの尾羽とそれから初列風切りも1枚拾った。これは、猛禽にやられた可能性も出て来た。この後他所へ廻るというSさんたちとは同道せず、真っ直ぐ家へ帰る。

 帰宅してすぐファイルを調べてみてびっくり、なんと自分はIさんからもらった羽と同じものをもっていた。以前どなたかからもらった羽で、ながらく見当が付かず保留にしたままになっていたが、ヤマドリの♀の尾羽とわかり、分類し直してファイルしたのだった。

 ヤマドリの尾羽というと、誰もが思い浮かべるのはあの長い♂の尾羽だ。「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」と百人一首でおなじみの歌も、中央尾羽の長さが知られているからこそ成り立つ。長さは個体差があっていろいろだが、以前Oさんからいただいた尾羽は最長は71cmもある。幅広の独特の縞模様で、長い中央尾羽が2枚に、外側になるほどだんだんに短くなる。この模様なら見間違いようがない。

 ところが、♀の尾羽になると別だ。わが愛用の「図鑑 羽」には、旧版にも改訂版にも何故か1枚も載っていない。反対に、笹川氏の「羽根図鑑」*1では、♀の尾羽が9枚丁寧に描かれている。これが唯一の手掛かりとなり、♀の尾羽とわかったのだった(しかしそれも忘れていたのだから恥ずかしいかぎり)。尾羽の数が9×2で18枚というのもこの図鑑で知った。

 さて、Iさんには、いったい何と言って挨拶したらいいものやら。

1 笹川昭雄著『決定版 日本の野鳥 羽根図鑑』世界文化社 2011年9月
   すべて実物の鳥を前に置いて描いたという著者の4冊目の図鑑。300種を収録。

写真1.拾ったカケスの尾羽2枚と初列風切りP8  
写真2.参考にカケスの初列雨覆い①と、その外弁の拡大②

写真3.
左2枚はヤマドリ♀の尾羽、左からIさんからもらった羽と忘れていた羽
右2枚はOさんからもらったヤマドリ♂の短い尾羽

写真4.Oさんからもらったヤマドリ♂の尾羽(上の2枚と最長71cmのもの)
写真3
写真4
11月3日(火)文化の日  利根大堰探鳥会本番
 Iさんには、真っ先にヤマドリの羽だったことを告げて謝った。宮城県のどこで拾ったのかと尋ねたら、蒲生干潟とのこと。ええっ?ほんとに?でも、羽はヤマドリに間違いはない!(略)

新方式の本番はちょっと緊張した。ちょっと密になりそうな場面もあったが、臨時に応援に駆けつけてくれたリーダーもいて、先ずは無事に終わった。少人数にはいいところもある。物理的なディスタンスを保っても親密感は却って強まる。水鳥はもちろん色々見られたが、猛禽類もミサゴ、オオタカ、ハヤブサと出てくれた。ミサゴが3羽一緒に空を飛び、獲物の魚を鷲づかみならぬミサゴづかみしている姿も見られた。ハヤブサが鉄塔の上に至近の距離で2羽姿を見せた。つがいかも知れない。工事の影響もあってか小鳥の姿こそ少なかったが、遡上する鮭を水中に観察することもできて、上々の探鳥会だったといえよう。

 帰ると、大きな荷物(50×50×40cm)が届いていた。木枠でまもられた段ボールの箱だ。注文してあった剥製が出来て来たのだ。開けると、ヤマドリの♀とツツドリの♂がなんとも巧みに同梱にされていた。ツツドリは台上に片羽を広げて止り、精悍に見える。一方のヤマドリの大きく見えること。こちらも注文通りの片羽を広げた姿で、羽の色つやが素晴らしい。

 さっそく問題のヤマドリの尾羽をとっくりと観察した。これこれ、間違いない。計18枚、下(裏)から覗くとはっきりと確認できた。注文してあったわけではないが、注文者の意を汲んで尾羽も精一杯拡げたスタイルにしてくれていたのに、1枚だと目立つ茶褐色の羽は、重なってしまうと溶け込んであまり特別の印象を残さない。

 さて、問題はどうやってこれを皆さんに披露すればいいかだ。

 去年は、日本野鳥の会埼玉の年末講演会があって、その会場にマミチャジナイの剥製を運んで皆さんに見てもらった。会員の有志の方々がわざわざ佐渡から拾って持ち帰ってくれたのを剥製にしたのだった。一昨年も、同じく年末講演会の会場にアオシギの剥製を運んでご披露した。これも奥日光の探鳥会でリーダーのIさんが見つけたのをもらって剥製にしたのだった。だから今年も、年末講演会の会場でお披露目できればいいと思っていた。

 よりによって今年は、2点もあるのに年末講演会はない。一体、どうしたらいいものやら途方に暮れる。持ち運びに便利なようには思えるが、この段ボールに同梱のままにはしておけない。とりあえずは保管のためにアクリルのケースを注文しよう。

写真5 出来上がった剥製2体 ①ヤマドリ♀、②ツツドリ♂



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