*** 下を向いて歩こう♪  - 私の羽日記(抄)- ***
近藤龍哉

9月22日(火曜日)秋分の日
 コロナの拡大騒ぎもあり、今年のお盆は帰らなかったので、秋のお彼岸の今日、父母の墓参りに出かけた。世の中は4連休の最終日、好天に恵まれ、さぞや渋滞も酷いだろうと覚悟して家を出た。が、それほどの混雑はなく、順調に兄の家に到着。墓参りを済ませ、久しぶりに会う兄姉や姪たちなどと話が弾んでいるところへショートメール。Kさんからで「ヤマドリのメス?拾いました。いりますか?」

 席を外してKさんに電話する。今、お仲間と新潟県探鳥中で、朝拾ったばかり、このまま持ち帰り、今日中に渡したいとのこと。目のいいKさんが移動中に車の中から発見したに違いない。もちろん、欲しいです。どこへでも受け取りに行きます。写真も一枚届いて、ヤマドリは間違いなし。見たところ、無残な感じではない。これなら、剥製に出せるかも。

 いつもより早めに兄の家を辞して5時前に帰宅。思ったより早く連絡が来て、もうすでに県内で、一行の世話役のSさんが届けてくれるという。6時に途中のコンビニで待ち合わせ、二重に包んだお宝を受け取る。ずっしりと思い。用意した発泡スチロールの箱に、かき集めて来た保冷剤を載せて入れる。
 夜、Kさんからメール、頼んでおいた情報が届く。拾った時間と場所の詳細な情報、その時の道路の現場写真もついて、これなら手続き用として十分だ。剥製を依頼するには、それが法律*1に触れるような仕方で手に入れ所持しているのではないことを証明しないといけない。何回か経験を積んで知ったのは、その一番いい方法は、拾得した地域の行政で届け出をし、その証明書を発行してもらうことなのだ。長野県や新潟県では、県の出先の環境課などで行政のサ-ビスとして証明書の類を発行してくれる。

 メールの末尾には、「羽だけ抜くのか剥製か、どうされるのか楽しみです」との一行。むむ、試されているような。轢死体だと、大きく損傷しているので使える羽だけを抜くしかない。これもなかなか嫌な仕事ではあるが、羽を救出する感覚があるので、迷うことはない。Kさんには前にもヤマシギの死体を提供してもらったことがある。友人との探鳥行の途中見つけて持ち帰ってくれ、拾った翌日の探鳥会に持って来てくれた。現物を見ると、珍品のヤマシギだったので大喜び。だが、かなり無残な轢死体であった。車とはいえ拾って持ち帰るには覚悟が要っただろうと思った。意外にも翼はほぼ無事だったので、翼標本*2のようなものができたが、あとは部分的に尾羽と体羽を保存しただけで、その他は庭に埋葬するしかなかった。皮膚が破れていると、抜くのも難しいうえに、固まった体液はなかなか落とせないのだ。でも、今回はそうはいかない。こんな綺麗な体から羽だけを抜くなんて、破壊行為というものだ。いくら羽の収集が趣味といってもそれはできない。手に入りやすい小鳥だったら、仮剥製にする(経済的理由で)が、これは珍品だからもちろん本剥製だ。


1. 野鳥の保護に関係する法律といえば、先ず「鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」である。許可なく野鳥を捕まえたり飼ったりすると、この法によって罰せられる。

注意しなければならないのが、「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」である。詳しくは日本野鳥の会の会誌『野鳥』2019年8月号に特集があるので読んでいただきたい。野鳥では特に保護の必要なイヌワシやトキなど39種(今年新たにアカコッコなど5種が加えられ44種となった)が定められており、捕獲や販売はもちろんたとえ羽一枚譲り渡すことも禁じられている。ただし死体またはその一部を拾うこと自体にはなんら規制はない。もちろん鳥インフルの疑わしいケースなどは届け出なければならない。詳しくは埼玉県のホームページ「死亡した野鳥をひろったら」を参照されたい。

2. 鳥類標本は、剥製と骨格標本が主だが、そのほかに羽毛標本がある。羽毛標本つまり羽標本のことだが、そう言われて想像するのは一枚ずつにして部位ごとに並べたものだろう。だがもう一つ、翼の形のまま保存したものを、翼標本という。一枚一枚の羽がどのように翼を形成していているのか、折り畳んだ羽が、どのような形に開くのか、翼としての機能の特徴はどうかなどを知ることができる。但し、一枚ごとの形や模様の変化、裏と表の比較などをするのが不自由になる。新潟県のホームページには翼標本の写真があるので参照されたい。これを見ると、上腕骨を肩関節で外し肩羽を含めている。私のは、三列風切りまでで、正式なものとは言えない。骨格標本を作製するときに、手品のように骨だけを抜き取り、残った皮と羽だけの翼標本もあるようだ。標本について、詳しくは、「鳥類標本はどのようにつくられるのか」加藤ゆき『自然科学のとびら』第18巻4号 2012年12月15日発行が大変参考になる。
Kさんが直後に撮った写真
死体
採集現場
9月23日(水曜日)
 昨夜は雨。少し冷え込んだとはいえ、お宝は、発泡スチロールの箱に入れ、保冷剤を入れただけで、一夜を明かした。我が家の冷蔵庫の冷凍室は満杯状態で、少し片づけてはみたものの、この大きさのものを入れるには狭過ぎる。閉めようとすると製氷部分がつかえてしまい、無理やり力を入れたらお宝が傷んでしまうのでやめにしたのだ。

 6時、朝一番で写真を撮る。冷凍にしていたら、こう自由には撮影できないから、冷凍しなかったのは正解だったか。全長53㎝、880g、外傷なし。体のわりに大きな足だ。首がくたくたして、骨折しているのかも。♀の尾羽は、割に短い感じ。尾羽の先端は白い。初列の外側、P9とP8が青黒い羽鞘がある。換羽したばかりでまだ成長中だ。もちろん両側とも同じ。換羽が終了直前だったのだ。ビニールの手袋をはめての作業は難しい。スマホは指紋認証が使えないし、指の先が余って持ちにくい。終わったときには手袋の内側は汗でヌルヌルだ。

 撮った写真を見ながら、目録や各種図鑑と照らし合わせてみる。ヤマドリは亜種が5種、これはその中の亜種ヤマドリだ。生息域は北緯35度20分が分かれ目とのこと、それより北に生息するのが本種だ(埼玉県も入る)。同じ新潟県でも佐渡は、分かれ目以南(関東では千葉県など)と同じで亜種ウスアカヤマドリになるらしい。南に行くほど赤みが強くなると書いてある。こんな境界があるのは知らなかった。遠景や後ろ姿しか見ていないから、こうしてあらゆる角度から細かく見られるのは得難い。絶対、剥製にして、みんなにも見てもらおう。

 午前9時、新潟県の関連する役所に電話する。これから現物をもって届け出に行くのは無理なので、写真と拾得時の状況をメールで届けることで、証明書を発行してもらえないか尋ねる。最初は、回答保留。しかし、そうして発行してもらった前例があることを伝えておく。続けて剥製製作会社に電話する。証明書類が出るまで自宅で保管するのは難しいので、すぐにも持ち込ませてほしいという申し入れをして見る。今から出張とのことでやんわり断られ、ヤマドリは腐敗が早いので内臓を取ってしまうか、それができないなら急いで冷凍した方がいいと勧められる。さあ大変だ。訳を話して家族の協力を得るしかない。冷凍室のものをどうするか。今日の昼は、まず冷凍うどんの消費だ。

 夕方、当該環境課の方から電話が来て、写真で受け付けてくれるとのこと、さっそくメール添付で写真を送ると、折り返し、願書の様式を送ると返事があった。ありがたい。
全身 上面
全身 下面
頭部 ・頸部
背・腰

尾羽

羽裏
換羽中初列と小翼羽
9月26日(土曜日)
 ここの所、雨の日が続く。うんざりしていいたら郵便物が届く。新潟県のN地域振興局環境課からだ。さっそく「野生鳥獣へい死体所持確認(証明)願」の様式を送ってくれたのだ。気力充実し、すぐに書類を作って投函する。昨日は、剥製製作のU氏から、ヤマドリ「安着」の返事ももらった。冷凍便で送ったのが無事着いたという返事だ。剥製製作は順調に進行中。

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