*** 下を向いて歩こう♪  - 私の羽日記(抄)- ***
近藤龍哉

9月7日(月曜日)
 朝、散歩に出ようとしたらパラパラと雨が来た。しばらく様子を見ていたが、それほどでもなさそうなので雨用の帽子だけかぶって歩きだす。ところが50メートルも行かないうちに、今度は急にバタバタと音を立てて大粒の雨。戻ろうとした瞬間、道端に羽を見つけた。とっさに拾い上げて駆け出したが、拾いながら羽軸の白さが目に入り、ムクドリだと分かった。
 去年までなら拾わなかった。しかし今年からは、何かの役に立つかもしれないと思うので、日にちと場所を付けて一応保存*1している。去年、いろいろな地点のムクドリの羽からDNAの比較研究をするという静岡の高校生からの依頼があり、応援するつもりで捜したことがあった。必要な時には見つからないものだ。いくつかの駅周辺を捜してみたが思うように集まらなかった。そもそも始めた時期が遅かったうえに、各駅ともいろいろ対策*2をとっていて、駅周辺に群れなくなったからだ。それに、朝晩の清掃もかなりしっかり行われている。だが、住宅地では相変わらずムクドリは多い。
 9月に入って、ムクドリの羽は見かけるのにオナガの羽をあまり見かけなくなった。そもそもオナガをあまり見かけない。集団が小さくなったような気がする。去年は9月19日にも拾えたが、換羽期間はいったいいつ頃までなのだろう。どの羽から始まってどの羽で完了するのかも気になる。
 ネットで探してみたら、カラス類についての、研究成果「ハシボソガラスとハシブトガラスの風切り羽および尾羽の換羽」*3が見つかった。その研究によると、全体としては一般的なスズメ目の鳥の場合とそれほど大きな違いはなさそうである。
 要約すると、こうだ。初列がP1から始まってP4まで進むと、並行して尾羽がT1から始まる。P5か6まで進んだ時、同じく次列がS1から始まる。三列風切りは次列よりも早く始まり早く終わる。尾羽は風切りより早く終了する。開始(P1)から終了(S6)まで、この研究の調査地である山梨県都留市の場合、ハシボソは5月下旬から始まり9月上・中旬まで(100~110日)、ハシブトは、6月上旬から始まり9月下旬・10月上旬まで(110~120日)かかるとのこと。
 飼い鳥なら詳しく観察した記録などもあるようだが、自然条件の中とでは違ってくる可能性がある。自然の中で特定の一羽を限定して観察することは不可能に近い。では、自然状態の換羽を研究するにはどうすればよいか。この報告を読んで、科学的な研究の方法が少しわかって面白かった。
 この研究ではこうだ。一定の地域に限定し、踏査による羽の収集と、定点観察による換羽状態の目視を併用している。踏査は、5月中旬から10月中旬まで、毎日4.5キロのコースを定め、歩いて落ちている羽を探した。辛抱強い!なるほど、大型の鳥であり、身近な存在であるカラスならではの有効な研究方法だと思う。拾った羽については、ハシブトとハシボソの区別がつかないとのことで、一緒に記録している。ハシブトの方が大きいのは確かだが、順番により大きさが異なるうえ、個体差もあるので、一目でそれを特定するのは難しい。良心的といえる。目視による観察の方ではもちろん区別されている。また、目視による観察では、営巣・子育て中の親鳥に換羽による欠落は確認されなかった、というのも重要な情報だろう。だが、この方法をオナガに応用するのは無理か。オナガでは目視による確認はちょっと難しいかもしれない。飛んでいる時間もカラスと比べ格段に短いような気がする。
 私も今年から、カラスの羽を拾ったら場所と日にちを記録することにしているが、これまでの所10枚ほどだから、この研究結果と比較してみるにはまだちょっと量がたりない。もっと早くから、記録しておくべきだった。少し時間を経たと思われるものや、折れた羽などは、除外した方がよい。排除すべき情報があることも知った。
 今年最初にカラスの羽を拾ったのは、5月13日(北本)でP1、これが始まりとすると埼玉県の方が1週間以上早いことになる。長さ232ミリだから多分ハシブトガラスだ。すると2週間早いことになる。最終が9月20日(家の近く)のハシブトのS6で、これも2週間ぐらい早いと言える。地域や気候の関係でこれくらいの差はあるのだろう。
オナガも含め、よく拾えるカラス科の羽を拾って損はない。いろいろなことがわかる。

注 
1. 保存の方法は目的によって変わる。一枚ごとに、記録を兼ねて保存するには、小さくて薄い表面に文字を書ける透明のパックがあると都合がいい。私の場合は、近くのスーパーで売っているSWAN「ピュアパック」をつかっている。幅・長さの組み合わせがいろいろあるので、数種類を用意している。長さのあるものは、出し入れするのにコツがいる。力を抜くと閉じる「逆作用ピンセット」があると便利だ。
【 私が今年拾ったムクドリの羽 保存袋入りと愛用のピンセット 】
2. 大宮駅周辺は環境美化重点区域とされ、ムクドリ対策実施(嫌いな音を流す)中の掲示がされて、羽は一枚も見つからなかった(写真)。上尾市は、ムクドリ対策費として令和2年度予算に140万円を計上、JR上尾駅周辺にムクドリの天敵である鷹を飛ばし、特殊な音による対策装置も導入するとした(「広報あげお」No.1034 2020.5)。 
【 大宮駅の環境美化重点区域とムクドリ対策実施中の掲示 】
 
3. 西教生・高瀬裕美「ハシボソガラスとハシブトガラスの風切羽および尾羽の換羽」
Bird Research Vol4 pp.S1-S8,2008
https://www.jstage.jst.go.jp/article/birdresearch/4/0/4_0_S1/_pdf

【 私が今年拾ったカラスの羽 一覧(左から日にち順)】
① 5/13 ハシブトガラス P1 232ミリ 北本自然観察公園
② 5/28 ハシブトガラス P3 256 ミリ 秋葉の森総合公園
③ 5/28 ハシブトガラス P3 257 ミリ 秋葉の森総合公園
④ 5/30 ハシブトガラス P3 262ミリ 北本自然観察公園
⑤ 5/30 ハシブトガラス P4 270ミリ 北本自然観察公園
⑥ 5/30 ハシブトガラス P4 270ミリ 北本自然観察公園
⑦ 7/30 ハシブトガラス S4 200ミリ 秋葉の森総合公園
⑧ 8/10 ハシブトガラス T  202ミリ 上尾運動公園
⑨ 8/10 ハシブトガラス T  200ミリ 上尾運動公園
⑩ 8/14 ハシボソガラス P9 240ミリ 上尾市栄町
⑪ 8/26 ハシボソガラス S6 180ミリ さいたま市北区別所
⑫ 9/10 ハシブトガラス P8 310ミリ 上尾丸山公園
⑬ 9/10 ハシブトガラス S5 210ミリ 上尾丸山公園
⑭ 9/20 ハシブトガラス S6 195ミリ さいたま市北区別所

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