なごりを探しに
~埼玉大学野鳥研究会OBの道東探鳥旅行・風露荘再訪記 第2回~ |
文・写真:小林みどり |
<ブラキストン線を越えたい>
今回の旅のスケジュールは以下のようなものである。
3月9日 朝、羽田空港発 昼前に釧路空港着 先発隊と合流。鳥を見ながら知床へ移動。羅臼「ワシの宿」宿泊。毛蟹を賞味し、シマフクロウの観察。
3月10日 午前、知床クルーズ。 終了後、鳥を見ながら根室へ移動。念願の「風露荘」宿泊。
3月11日 午前、落石クルーズ。 午後、歯舞クルーズ。「風露荘」宿泊
3月12日 春国岱など宿周辺で探鳥後、釧路空港へ移動。帰らなきゃならない人は帰る。「風露荘」に未練のある人はさらに連泊。
とにかく、まずは釧路だ。K子と二人、釧路行きの飛行機に搭乗する。離陸したら1時間40分で釧路である。入間市在住のK子は、羽田から釧路よりも、家から羽田までのほうが時間がかかる。速いなぁ。飛行機ってすごいなぁ。津軽海峡を越えて、ブラキストン線を越えて、昼前には釧路だ!
さて、そろそろ釧路に着く頃だ。おっ、機内放送が入る。
「皆様、当機はこれより釧路空港へ向けて着陸態勢に入ります。今一度、シートベルトを…」ってヤツだな…
と思いきや…
「皆様、現在、釧路空港上空は強風と濃霧のため、天候の回復を待ちます。お急ぎのところご迷惑をおかけいたしますが…」
客席前方のスクリーン上で、釧路目指して一生懸命に進んでいた飛行機の動きが、止まった。
なんだ、まだ降りられないのか。
飛行機は釧路上空を旋回しているのか、ホバリングする鳥のように一点にとまっているのか、よくわからない。スクリーン上の飛行機は止まったまま。窓の外は雲だらけ。
また機内放送。内容はさっきと同じ。
それにしても、強風と濃霧のため着陸できないって、なんなんだ? 強風で濃霧が吹き飛ばされないか、普通? イライラしてきた。
さらに時間がたった。状況は変わらない。かれこれ30分、いや、一時間近くなるのだろうか。
そのうち、スクリーン上の小さな飛行機が動き始めた。 おっ! いいぞ!… ん? 向きが変わった? … あれ、そっち違うんじゃない?… おいおいっ!?
そこへ機内放送。「皆様、釧路空港上空の天候の回復が望めないため、当機はただいまより羽田空港へ向けて…」
エ~~~!?
機内放送はその後も続き、チケットの払い戻しがどうのこうの、と叫んでいたが、耳にはいりゃしない。脳内、大混乱。隣りのK子は「釧路、降りられなかったね~」と、涼しい顔。彼女は若い時から、どんなときでも動揺しない子だ。
超えたばかりのブラキストン線をまた越えて、スクリーン上の小さな飛行機は、まっしぐらに羽田を目指す。その姿は「わーい、わーい、おうちに帰れる~」と喜んでいるようにさえ見えるのだが…そんなに喜ばないでほしい。 |
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この日は、とうとう行きつくことができなかった「たんちょう釧路空港」。名前は「たんちょう」だけど、玄関を守っているのはシマフクロウ様。 |
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早朝にウロウロしていた羽田空港で、昼頃にまたウロウロしている。チケットの払い戻し方法はK子がちゃんと聞いていてくれた。頼りがいがある子だ。手続きのために所定のカウンターへ向かう途中、飛行機の発着を示す掲示板が目に入った。
女満別行きがあるじゃないか!!!
幸い同じ航空会社である。しかし出発は約30分後。カウンターにはチケット払い戻しを待つ長蛇の列。間に合うだろうか? いや、間に合わせるのだ! 今日中に、何としてでも、ブラキストン線の向こうに行くのだ! 意地でも行くのだ!
手にしたチケットを振り回し、なりふり構わず叫ぶ。
「すみませ~ん!女満別行き、乗りたいんですけど~」
「釧路行きの飛行機に乗れば、必ず釧路に行ける」と疑いもしなかった。着陸できない場合など、考えもしなかった。飛行機はすごい。でも、その目的が達成できない場合もある。人間の技術は100%完璧ではないんだ。飛行機に限らず…
本日、3度目となるブラキストン線越えを果たした。午後2時過ぎ、予定通りに女満別空港に着陸。そこは強風も吹かず濃霧に覆われてもいなかった。ただ静かに雨が降っていた。
この雨が曲者だとは、その時は知る由もなかった。
<さいはての街に氷雨が降る>
女満別空港は知床の最寄りの空港である。考えようによっては私達はラッキーだった。羽田に戻るのではなく、新千歳空港とか稚内空港に連れていかれたら、もっと大変だった。なんと運のよいことだ!ツイてるではないか!この調子で今夜は、シマフクロウ様へのお目通りもバッチリだ!
さて、知床行きのバスは?と観光案内コーナーへ向かうと、何やら人だかりが、すごい。ただ事ではない雰囲気が漂う。人だかりの向こうから、担当の若い女性の声が聞こえてくる。
「〇〇線は、ダメなんですよ」「××経由ですか?え~と、閉鎖ですね」「バス、動いてないんですよ」「通れません!」「ダメです!」ネガティブな言葉ばかり。その声も悲壮な感じ。いったい何が起こったんだ?
要するに、昨日からずっと雨、それも大雨なのだ。鉄道も主要道路も、あちこちで冠水。JRもバスも運休が相次ぎ、車での移動もままならない状態だという。特に知床方面へ向かう全ての道路が閉鎖。知床は完全に「陸の孤島」になっていた。
ワシの宿・毛蟹・シマフクロウ・知床クルーズ…みんな、異次元の彼方へ吹き飛んだ。
とりあえず今夜の宿を確保しなければ。ネガティブワードを連発していた案内コーナーの女性に尋ねたら、「網走なら近いしホテルもあるし、路線バスでもタクシーでも行けますよ」とニッコリ。久々に「ダメです」以外の返事ができて、うれしかったのだろう。
<どん底>→<ラッキー♪>→再び<どん底>。まるでジェットコースター。脳内の大混乱、2回。ブラキストン線越え、3回。たどり着いた網走駅前のビジネスホテルの一室で、たいへんな一日が終わろうとしている。
毛蟹だったはずの夕食は、ファミリーレストランのハンバーグセット。窓の向こうは、シマフクロウ様用の、煌々と照らされた生け簀ではなくて、いずこも同じ都会の夕暮れ。そこに、雨でもなく雪でもない何かが、また降り始めた。 (続く)
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「さいはて感」が半端じゃないのは、やはり「監獄」のイメージからなのか? その監獄は、今では網走観光の目玉になっている。 |
網走駅前の「モヨロ人漁撈の像」。6~10世紀ごろ、サハリンなどからオホーツク沿岸に渡来した海洋狩猟民。獲っていたのはクジラ、トド、アザラシ!…獲るものが違う… |
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