白樺峠・乗鞍岳編 |
文・写真:廣田純平 |
新型コロナウイルスの終息が見通せず、不安な日々が続いているなかですが「きっと来年こそは!落ち着いたらあそこに行こう!」と皆様に夢と希望を持たせられることを期待するこの企画。あまりにも夏シーズンに偏った紹介だったため、今回は秋の時期ということで「白樺峠・乗鞍岳」を第五弾としてご紹介いたします。「タカの渡り」で有名な白樺峠ですが、なぜここでタカの渡りが見られるのでしょうか?日本で繁殖をしたサシバやハチクマは9月中旬から渡りが本格化し、東南アジアや中国南東部へ向かいます。白樺峠は3,000m級の北アルプスがそびえるなかでも、標高が比較的低く、山を越えて渡りをする中では、タカたちにとって渡りやすい場所であり、多くのタカたちが集まる場所なんだろうと言われています。もちろん、白樺峠に限らず9月中旬~は各地でタカが渡る様子が観察されています(愛知の伊良湖岬、埼玉の天覧山・中間平など)場所によっても見られる種類に差があったりします。
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白樺峠はどこにあるかというと、長野県の松本から車でさらに1時間程度。埼玉から行った場合、片道4時間はかかるだろうという、なかなかの遠さです。では、いつ行ったらいいのかというのが、一番の悩みです。私は9月の中旬頃からは、毎日かかさず松本の天気と「信州ワシタカ類渡り調査研究グループ」のHPの「渡り速報」を見ています。http://www10.plala.or.jp/ayac/shirakaba/
こちらのグループでは、タカの渡りの数を毎日掲載してくれており、予定を組むためにいつも見させてもらっています(ありがとうございます….!!)
9月は秋雨前線が停滞したりと、天気が良くないことも多々あります。そんな中ですが、タカたちが飛びやすいのは9月中旬以降の晴れた日です!特に天気が悪いのが数日続いた後の晴れなどは、かなりの数のタカたちが飛びます。私が過去に訪れた日で、最大の数は、タカ類全部合わせて4,824羽。(上記のサイトの速報数)ちょっと、意味のわからない数字ですが、それだけの数が調査グループによって観察されたということです 笑 その前の天気を見てみると、ぐずついた天気が1週間近く続いた後の晴れの日でした。どうして晴れの日が飛ぶのかというと上昇気流に関係があります。晴れた日は地面が温められ上昇気流が発生しやすくなります。そうするとタカたちからすれば、翼を広げただけで、山を越える高さまで上がっていきやすく、さらにその上にある気流に乗ることができ、悠々と渡っていくことができます。雨や曇りの日は全く飛ばないというわけではないのですが、過去に見た時は、口を開けて大変そうな感じでバサバサ羽ばたきながら山を越えていきます。タカの気持ちになったら、そう考えるとやっぱり晴れの日がいいですよね?
白樺峠という名前のとおり、観察場所は山の上となります。登り口から約30分、山を登っていくと、森が切り開かれ見晴らしの良い場所があります。ここが鷹見の広場です。斜面は段々畑のようになっており、ありがたいことに木のベンチが備え付けられています。朝早くから来る人も多いため、ベンチのある場所は埋まってしまうことも多いため、私が行くときはゆったり座れる折り畳み椅子を持参します。ありがたいことにこの場所から少し離れた場所には簡易トイレ(有料)もありますし、土日などには下からお弁当を売りにくる方が来るときもあります。また、広場の中段には、過去の白樺峠の観察データや、ワシタカ識別ハンドブックなども販売されています。
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鷹見の広場 |
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段々畑みたいな作りです |
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販売物もあります |
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鷹見の広場から見える山の呼称です |
晴れていればおおむね8~9時頃に上昇気流が発生し始めてきて、タカたちが飛び始めます。その日に飛ぶ数は、当日の天気、その前数日の天気、風向きなど色んな要素が絡んでいると思います。1日観察していても、群れがたくさん来たら途切れ、またしばらくすると群れが来てなど、状況によって様々です。目に見える範囲だけではなく、スコープで向こうに見える山の上などを見ると、タカ柱ができていたりとそれを見つけると「来るぞ来るぞ~!」と胸が高鳴ります。「1のピークの上でタカ柱!」「鉄塔の上に10羽くらいいるー!」など、しょっちゅう通っている人が声で教えてくれたりもします
笑 遠くでタカ柱が出ても、広場の上を通ってくれるとは限らず、風向きの関係などで、広場の前を通り過ぎて左右に流れて行ってしまうことも多々あります。天気含め、バクチ要素が高いものでもあるため、大当たりの日になった日は大興奮です。また、あの感動を再び…!と思って、毎年9月中旬にさしかかると松本の天気予報をしゅっちゅう見てそわそわです
笑
私がよく行く9月中旬~下旬はサシバ・ハチクマがメインです。10月に入るとノスリ・ツミが増えます。タカたちの数の多さ・タカ柱の様子なども見ていて楽しいですが、サシバ・ハチクマの雌雄差・色の差、また今年生まれの幼鳥などそういったところも見ていて楽しいです。特にハチクマは個体差が大きいです。 |
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楽しませてくれるのはサシバ・ハチクマだけではありません。すごいスピードで飛んでいくハリオアマツバメ、亜高山帯の鳥・ホシガラス、他の猛禽類によくちょっかいを出すツミ、運が良いとクマタカ・イヌワシ・チゴハヤブサなども見られます。同じように渡りをする蝶のアサギマダラが観察している脇にいることも。
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 ハリオアマツバ |
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 イヌワシ(ちょー遠かった) |
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見ていて感激するのは、自分たちの近くをタカたちが通った時や、近くでタカ柱が出来た時です。近くを飛んでいく個体を見ていると、たまに「この子、こっちを見ている!」という瞬間があります。たしかにあんな山肌に人がたくさんいたら「なんじゃこりゃ?」と思うかもしれませんね。タカ柱はタカの渡りならではという景色で、これを見られると感激します。渡りは過酷な旅です。渡っていくタカたちを見ると、思わず手を振ったり、がんばってね~!来年も来てね~!と声をかけてしまいます。 |
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気流に乗って飛んでいきます
観察場所のすぐ脇に出来たタカ柱→ |
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せっかく遠くまで行くのだし、タカの渡りだけでなく他にもどこか!という方にオススメしたいのが乗鞍岳です。白樺峠の登り口までは車で奈川側か乗鞍川から入っていくわけですが、乗鞍側にある「乗鞍岳バスターミナル」からバスに乗れば約50分で乗鞍岳山頂の畳平まで行けます。(http://norikura-bus.com/)乗鞍岳は3,000m級の山ですが、自分の足で登らずとも北アルプスの世界まで行けてしまうなんて素晴らしい~!時期的にも紅葉が始まった頃で、車内からの景色も楽しめます。ハイマツが広がる地帯に来ると飛び回るホシガラスを車内から見ることができます。時期的に、冬に向けた貯食をしている時期で、ガーガー鳴きながら飛び回っています。
畳平に着くと、北アルプスを一望できる素晴らしい景色が広がっています。うわ~なんて良い景色…またこの日の天気が最高すぎましたわ…。 |
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山を見ているだけでもサイコーなのですが鳥も探します。畳平に着いてからも、ホシガラスは忙しそうに飛び回っています。高山帯の鳥に期待して歩き回りますが、まずカヤクグリに簡単に会えました。次に現れたのはイワヒバリ。登山道をトコトコ歩いていて、道の先を塞いでくれました 笑 この時期はライチョウは見づらいと、乗鞍岳のガイドさんに言われたのですが、数日前に目撃情報があった場所らへんを目指して歩いていきました。すると、貯食のために飛び回っていたホシガラスが目の前に降りてきてビックリ!こちらのことも気にする様子もなく、岩の下にハイマツの実を埋め始めました。数分間この状態が続いて興奮でした。ライチョウは厳しいかな…と諦めかけていましたが、下から登ってくる登山客の動きが不審なため、見てみるとライチョウが登山道で砂浴びをしていました! 笑 なんてラッキーな! 笑
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イワヒバリ |
ハイマツの実を埋めています |
そこは登山道ですよ! |
砂浴びするために出てきてくれたようで |
天気も良すぎるうえに、鳥もたくさん見られて大満喫すぎでしたが、白樺峠に1泊2日で行った場合は、こんなハシゴプランも出来ますのでぜひご参考にしてください。
【お役立ちリンク】
・信州ワシタカ類渡り調査研究グループ
http://www10.plala.or.jp/ayac/shirakaba/
・乗鞍岳バスターミナル
http://norikura-bus.com/
約2か月ちょっと「コロナが落ち着いたら行きたい!魅惑の探鳥地!」としてご紹介していきましたが、いかがでしたでしょうか? 埼玉県外の遠いところばかりでしたが、どこに行っても今いる場所とは別世界が広がっています。出かけられないのが日常になると、普通に出かけられた日常が恋しくなりますし、もっと色んなところに行きたい!という欲が沸いてきたのではないかと思います。何が見られるだけでなく、どうやって行くのか、何を予約するのかなど、そういった点にも重点を置いて書かせていただきましたので、見ていただき「行きたい!」と思ってくれた方の参考になれば幸いです。また、HP掲載のため、見ていただいた方のリアクションが知れないのが残念なため、ぜひご感想などをお寄せください。約2か月間、ご覧いただきありがとうございました。
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