*** 鳥獣保護管理員の落書き帳 ***

鳥獣保護員・エトロフ小林の 『落書き帳』 第12回 忖度の季節が始まる
ごきげんよう。エトロフです。

 雑木林が、シデ類の新芽でほんのり色づく頃。ある朝、「ピャアー」という大きな声が高らかに響きわたります。それに応えるように「キッキッキッ」と、またひと声。オオタカのペアが鳴き交わしてます!昨年、営巣したこの雑木林に、今年も現れました!
 
 やったね!バンザーイ!今夜は乾杯だ…って毎日、乾杯しているから、そうですね、今夜はエビスかプレモルで乾杯だ! それぐらいうれしい出来事です。

 それと同時に、ず~んと重たい鉛の十字架を背負わされた気分になります。これから先、しばらくの間、この重荷と共に過ごさなければならない…

 鳥獣保護管理員は、通常の職務の他に「オオタカの繁殖状況調査」を担当することがあります。調査期間は巣を作り始める冬の終わりから幼鳥が巣立つ夏まで。調査内容は、その場所でオオタカが繁殖するかどうか、幼鳥が何羽巣立つのか、失敗したら何が原因だったのか? つまり繁殖の一部始終を見届けるのです。
 
 こういう調査をしていると言うと、よく、「埼玉県内では、オオタカがどれぐらい繁殖しているの?」と聞かれますが、繁殖状況については調査員にも知らされません。「こことここをお願いね」と指示された場所について、粛々と調査を進めるだけです。ちなみにエトロフは3か所担当しております。

 最初の調査の時は、前任の方と一緒に回り、いろいろ教えていただきました。その一つは「30分以上滞在しないこと!」30分待って、何の動きもない時は一旦その場を離れ、しばらくしたら出直す。声でも姿でも確認出来たら、長居は無用。30分たっていなくても、その時点でその場を離れる。

 要するに、調査すること自体が繁殖に影響を与えてはいけないのです。姿も見えない、声もしない場合は、ここに自分が立っているせいで、警戒して動かないのかもしれない、と考えなくてはいけない。その並外れた視力で、自分は常に見られている、と認識しないといけないのです。

 強く逞しいイメージのオオタカと言えども、繁殖期にはひじょうに神経質になります。どれだけ神経質になるのか、それはもう、こちらには想像できません。でも想像しなきゃならない。自分だったらどう思うか、自分だったらどうしてほしいか・・・

 「忖度」 使ったことも聞いたこともない言葉でしたが、色々あって一躍有名になり、2017年には流行語大賞に輝いてしまいました。この言葉、有名になった理由は呆れるようなことばかりでしたが、本来は悪い意味はなく、「相手の気持ちを推し量って、相手に配慮すること」だそうです。

これ、まさにオオタカ繁殖調査に必要なことですよ!

    

 この調査は、巣が見える場合は、まだ楽です。巣にいるかどうかは判断しやすいので、巣がギリギリ見える場所で待機して、ちょっとでも動きがあればそれでだいたいOK.。30分もかかりません。

 ところが、エトロフの調査地では、営巣木がある雑木林は私有地で、中に入れません。巣に近づくどころか、営巣木も特定できない。雑木林の外の、出来るだけ目立たない場所でじ~っと待つしかないのです。林の奥からのひと声を、あるいは林に出入りする姿のチラ見を期待して、最低30分。 かなり怪しい行動なので周辺住人の皆様にも忖度しないといけない(実際、調査中にパトカーがウロウロしてたことがあります。鳥獣保護員の腕章つけてたせいか、お咎めなしでしたが)。

 さらに夏!猛暑の中の30分は、つらい。けれども冷房の効いた車の中で張り込みというわけにはいかない。窓を閉めていたら、幼鳥の小さな声が聞こえない。そもそも、さいたま市はアイドリング禁止だし。

汗をダラダラ流しながら、だんまりを決め込んでいる雑木林に向かって語りかける。
「いるんでしょ!?」・・・し~ん
「いるならひと声、鳴けよ!」…し~ん
「姿を見せろなんて言ってない。ひと声でいいんだ。ピャーとかキーとか」…し~ん
「もうっ!こんなに気を使ってんだから、そっちも少しは忖度してよ!」…し~ん
「分ってるの?これは鳥獣保護管理員案件なんだよ!!!」

*写真キャプション:2017年12月、ファミリーマートが発売したお弁当「忖度御膳」とその中身。けっこう美味しかったよ。

各環境管理事務所の連絡先は、以下をご参照ください。
http://wbsj-saitama.org/kankyokanri_office.html
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