*** 鳥獣保護管理員の落書き帳 ***

鳥獣保護員・エトロフ小林の 『落書き帳』 第10回 籠で鳴(泣)く子??・ 雀のお宿
ごきげんよう。エトロフです。

 今回ご紹介する話は、新聞でも報道されたので、ご存知の方も多いかもしれません。と言っても、もう3年ほど前のこと。忘れてしまったかな?

 舞台は県北部のある町。この町に住むXさんがある日、家の外に出たところ、一羽のスズメが飛んできて肩にとまったそうです。Xさんは何度も追い払ったそうですが、スズメは逃げる気配を見せず、そのまま家について来てしまいました。その後、スズメは、Xさん宅の居間を自分の寝床として、Xさんとご主人と共に、仲良く暮らしているそうです。
 
 新聞に掲載された記事には、専門家のコメントとして「狩猟期間(11月15日~2月15日)内であれば、適切な方法で誰でも自由に捕獲することができる。期間を過ぎてから飼育することも可能」と書かれていました。これがマズかったですね。

 このような記事が紹介されたところ、日本野鳥の会埼玉へ「スズメを飼ってもよいのか?」という問い合わせが来ました。そりゃ、来ますよね。当会は、ことあるごとに「野の鳥は野へ」「野鳥を飼っちゃダメ!」と言い続けているのだから。

 くだんのコメントがマズかった理由を説明します。このコメントは鳥獣保護管理法第11条に基づくものと考えられますが、この法律では、さらに捕獲できる場所について「垣、さくその他…で囲まれた住宅の敷地内において」と制限しているのです。ところが掲載されたコメントでは、この部分がゴッソリ抜けている。だからおかしなことになってしまった。

 さらに「狩猟期間を過ぎても飼育することも可能」という部分も、問題ありあり。飼育は、傷病鳥を保護する場合など特殊なケースに限られています。

 なんだかんだで、やっぱり、野鳥は飼えないんです! と理解してください。


さて、Xさんちのスズメの話に戻り、本件が違法か否か検証してみましょう。まず狩猟期間だったのか? これは記事からは分りません。では場所はどうでしょう? 記事には「自宅付近」と書かれていますので、家を出たところ、つまり敷地の外と考えられます。この点ではアウトです。次に捕獲の方法が適切かどうか? ・・・ん? スズメが飛んできて肩にとまったんですよね?

そもそも、これは「捕獲」なんでしょうか?

 「捕獲」とは、「その生き物を自己の支配内に入れる行為」ですが、Xさんはスズメを自分の支配下に入れているでしょうか? 「スズメのほうから飛んできて肩にとまった」「追い払っても肩から離れない」・・・???

 家の中でもXさんはどうやら、スズメを籠には入れていないようです。さらにスズメが寝床にしている居間は玄関脇にあるとのこと。スズメが家を出たいと思ったら、そのチャンスはいくらでもありそうですね。でも、スズメは出ていかないんです。

 エトロフの見解は「これは捕獲ではない」。もっともスズメに食べ物を与えているので「飼育」していることになるのかもしれませんが…鳥の自由を奪っていない、という点で「庭に餌台を置いたり、実のなる木を植えて、鳥を呼んでいる」のと、あまり変わらないのではないかなぁ・・・

 似たようなケースがあります。たしか広島県だと思いました。ある農家の屋根裏で、毎年、フクロウがヒナを孵しているという話です。これもテレビで複数回紹介されていますね。ヒナたちがある程度育つと、屋根裏から階段を降りて居間にやって来る。そして、家のおばあちゃんの肩にとまったり食べ物をもらったりします。やがて時が来ると、彼らは開け放たれた家の窓から夜空へ飛び立ってゆく。涙ながらに見送るおばあちゃん・・・これがもう、数十年も繰り返されているといいます。

 これも、このおばあちゃんはフクロウを飼っていて怪しからん、とは言えませんよね。

 XさんちのスズメはOK、広島のおばあちゃんちのフクロウもOK。そんなら俺も真似して野鳥を飼うぞ! という人が出てくるかもしれません。でも、こういうのって、真似できるでしょうか? あくまでも決定権は鳥側にあるのですから。

 「野の鳥は野へ」の「野へ」の部分は、「野の鳥が望む場所へ」と解釈すべきでしょう。そして人間は出来るだけ、「野の鳥が望む場所に生息すること」の邪魔をすべきではない、と思います。

 法律は如何様にも解釈できるもののようです。中には、さまざまな前例を引き出してきて「これはやっぱり違法だ!」というリーガルな方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、確実に言えることがひとつ。
「もしXさんが雀のお宿に招待されて、おみやげに“二択のつづら”を差し出されたとしたら…彼女が選んだつづらには必ず、宝物がいっぱい詰まっているはず」


各環境管理事務所の連絡先は、以下をご参照ください。
http://wbsj-saitama.org/kankyokanri_office.html
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