*** 下を向いて歩こう♪  - 私の羽日記(抄)- ***
近藤龍哉

9月11日(金曜日)
 宅配便の人とすれ違うようにして、とつぜん鳥仲間のAさんが来訪、玄関先で「朝取りのコムクドリの羽です」と言って、まるで自宅の菜園で採れた野菜でも置くように、透明の筒型ケース*1に入ったたくさんの羽をケースごとくれ、外に車が停めてあるからとそそくさと帰って行った。
 今朝4時起きをして、新都心東口のコムクドリのスポットで朝の飛び立ちを観察し、そのあと拾ったとのこと。ケースに巻き付けたメモ用紙には、「コムクドリorムクドリの羽」として日時と正確な場所、それに「コムクドリの集団塒の下で拾った。コムクドリの羽があると良いのですが」と、書いてあった。引き留めてねぎらうべきだったと悔やまれた。
 昨年、ムクドリの羽探しをしたので、状況は目に浮かぶ。糞や体毛で汚れた場所で拾ってくれたにちがいない。
 実は、先日久しぶりに催されたオンライン飲み会で、Yさんから「新都心駅周辺にムクドリの大群がいて、その中にかなり大きなコムクドリの群れがいる」という意外な情報提供があり、すかさずAさんが行くというので、「行ったら羽を拾って!」とつい口走ってしまったのだ。まさかこうして届けてくださるとは。
 かなりたくさんの羽だ。何はともあれと、先ずは数を数えながら洗った。洗って整理してみると、たくさんの初列風切は、どういうわけかすべてムクドリのものと思われた。大きさもずっと大きいし、内弁の白斑もない。だが確実にコムクドリとわかったものが8枚あった。そのうち6枚は次列風切で、内弁に半円形に近い形の白斑がみてとれる。後は、三列が1枚と小翼羽が1枚である。なんと小翼羽にも白斑がある。実は、コムクドリの羽を手にしたのは今回がはじめてだ。さっそく、お礼と喜びの報告の電話をした。
 午後、写真を撮ろうとしてよく見ると、乾いたせいか、6枚の次列がなんとなく雰囲気が違って見える。先ず濃い色と薄い色の二つのグループに分けてみる。濃い色の外弁に何か薄く光る場所がある。薄い色の方も、よく見れば細くてにぶいがあるにはある。光を当てルーペで拡大して見て驚いた。小羽枝がキラキラ青みをもって輝いているのだ。
 以前にも、コムクドリの羽かもしれないと提供されたことがあり調べたことがある。風切りの場合、決め手は内弁の白斑だということは頭に入っていた。でも外弁にこんな特徴(輝く部分)があるのは知らなかった。さっそく、見慣れた『図鑑 羽』(旧版)に当たる。掲載されているのは♀の羽の写真で、以前の印象と変わらない。特徴の説明も、「大きな白色部」だ。
 だが続けて、「風切の色は暗褐色であるが、わずかに銅緑色の光沢を有している。雄ではこの部分は強い金緑色光沢をもっている」と書かれていた。これだ!書いてあったのだ。すぐに「改訂版」も見てみる。すると、こちらは♂♀両方の写真があり、初列ははっきりしないが、次列には緑の光沢が写っている。特徴の欄には、「雌雄は野外で見ると大分違うが、色の濃さ以外はどれもよく似ている。但し、雄の風切りや尾羽などにははっきりした金属光沢がある」と書かれていた。「改訂版」は大きく改訂されていたのだ。
 光の当て方で、金属光沢の見え方が変わるので、工夫しながら撮影する。やはりこの部分は拡大して見るに限る。この事実はもっとみんなに知ってもらいたいと思う。


1. 某食品メーカーのパルメザンチーズのケース 鳥の羽の蒐集に最適、とはこの道の先輩であるIさんの提唱。私も愛用し始めたがチーズの消費量が少ないのでなかなかカラにならず、Aさんからケースだけもらったことがある。
コムクドリ♂の次列
コムクドリ♀の次列
コムクドリ♂の次列の拡大写真
コムクドリの小翼羽
コムクドリの次列(左)とムクドリの次列(右)
9月13日(日曜日)
 朝4時に起き、5時10分前には現地の駐車場に車を停めた。あたりはまだ薄暗い。しばらく駐車場の中から眺めてみる。中山道のケヤキの枝はまだ黒々として見定められないがかなりの大群のムクドリがいる。駅周辺にはもういなくなったと思っていたのになあ。この中にコムクドリが集まって塒としている木があるそうなのだが、私の双眼鏡ではうまく判別できない。
 5時10分過ぎ。そろそろかな。人通りはまばらで、ジョギングの人が時々通るぐらいだ。散歩らしく見えた男の人が、突然パンパンパンと手を叩いた。すると驚いた鳥たちが一斉に飛び上がり群れとなって旋回し、移動するように別の木に止った。慌ててシャッターを切ったが、まだ薄暗いので全然撮れる状態ではない。カメラを調整していると、突然バリバリという整備不良のような大音響の車が来て、さらにババンバンというバックファイア音を出した。
 なんということか、鳥たちは一瞬にして高く飛び上がり(すごい数だ!)、半周旋回しただけで、ぐんと高度を上げ、今度は戻ることなくそのままどこかへ飛んで行ってしまった。 昨日は雨だったので、今日こそと思って来たのだが、あっけない幕切れだった。
 コムクドリが塒としていた木はわからないまま。が、時間はある。下を見て歩こう!日曜日の朝だ、道路には時々しか車は走らない。先ずは両側の歩道、それから大胆に車道の歩道際、そしてさらに中央分離帯側と往復しながら探す。昨日の雨はところどころに水たまりとなっている。糞と汚泥が積もったままのところもあるが、雨用の靴なので平気だ。
 問題は内弁の白い斑が濡れるとみえなくなることだ。羽は無数というほど落ちている。その中に、内弁の白い斑はほとんどみあたらない。1枚見つけると、その周辺を念入りに捜してみるが、次々と、というわけにいかない。一巡して拾えたものは次列が10枚そこそこでしかない。
 方針を変える。大きさに注目しよう。すでに次列の大きさはわかっている。初列も含め、大きさでコムクドリのサイズのものは、汚れていても拾う。こうして5時20分から1時間、歩道は道路側と建物側とに分けて往復。とうとう、透明のケースはほぼいっぱいになり、駐車料金600円を投入して帰路についた。
 今日の成果は、コムクドリの初列風切3枚、尾羽2枚、♂三列1枚、そして次列♂♀。
そして大量のムクドリの羽の山。
 Aさんの苦労がわかった。無数の中から手掛かりのあいまいなものを選り分けるのは、至難の業だということ。車も人目も多少気にしながら、ともかくこれだけ拾えた。これは大成果、としよう。

追記 この時、新都心の銀行前の3本のケヤキに青いネットが掛けられていて、作業服の人が見上げていた。いよいよここでも防御が始まるようだ、と思っていたら、11月11日の朝日新聞に、「ケヤキ並木が、ン?真っ青」という見出しで、その数34本に拡がったという記事が出た。ムクドリはといえば、数百メートル南の並木に寝床を移したそうである。コムクドリは?そう、もっとずっと南にいるはずだ。こちらは夏鳥だから、もう今頃は南の国に着いていることだろう。 
コムクドリの初列(右3枚)とムクドリの初列
コムクドリの尾羽(左2枚)とムクドリの尾羽
コムクドリ♂の三列

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