*** 下を向いて歩こう♪  - 私の羽日記(抄)- ***
近藤龍哉

8月25日(続き)
 早朝、近所の栗畑でオナガの群れを観察した。この栗畑へは、今年営巣したらしき場所から、我が家の上を越えてオナガの群れが行き来している。栗の木の下は草ぼうぼうだったのが、いつの間にか草ごと表土がはぎ取られたかのようにふかふかの土に変っている。その土の上にオナガが下りて採餌している。枝にいるのを合わせると十数羽にはなろう。今朝は幼鳥に親鳥(あるいはヘルパー)が給餌するのを目撃した。幼鳥は一回り小さく頭がごま塩なので一目でわかる。
 観察している自分を、誰かが畑の向こう側から立ち止まってじっと見ている。犬の散歩の途中かもしれない、と初めは思った。いなくなった後そちら側に移動して見ると、道路際にたくさんの開いた栗のイガが落ちていた。明らかにここでイガをこじ開けた跡がある。もしかしたら、さっきの人が?いいや、私が疑われていた?ともかくここが栗畑であり、立派な栗の実が稔っていて、今が収穫期真最中であることに鈍感であった自分に気がついた。瓜田に履(くつ)を納(い)れずだ。
 というわけで、夕方は場所を替え、線路の向こう側の林に行って見た。ここもちょっと自然が残っていて普段オナガをよく見かける。一回りしてみたが、今日は鳴き声もしない。あきらめて帰ろうとしたとき、林の外の道ばたの草の上に、猛禽の羽を見つけた。喜ぶ暇もあらばこそ、2,3メートル先でなんともう一枚見つけた。そっくり同じ、一対だ。
 猛禽の羽であることは確かだが、何かはすぐには思いつかない。外弁は褐色、内弁は褐色と白い部分があるが、褐色にわずかに茶色味がある。外弁と内弁を貫く濃い褐色の部分の先端が躍り上がっているように見える。見たことはあるが、何の羽だろう。帰って調べてみると、サシバの次列風切りだった。サシバはMさんから初列、Hさんから次列などもらってはいたが、自分で拾うのは初めて。繁殖地でしか拾えないと思っていた。長さ158ミリ、幅43ミリ、左右一対である。O氏のフクロウの羽に続いて、また同様の羽が手に入った。
 サシバがこの小さな林で繁殖したとは考えられない。もうそろそろ秋の渡りが始まる頃だ。一時的に滞在したに過ぎなかろう。林から道路に張り出した枝、そこに止っていたそのほんの短い間に、同一個体の左右1対の羽が同時に抜け落ちたということだ。そんなに精確に働く生理的な仕組みがあるのだろうか。その神秘の謎を知りたいものだ。
 サシバの羽は図鑑類に照合できるほど詳しく載っておらず、順番まではわからないが、『図鑑  羽』に載っているS1は173ミリ、S10が140ミリだから、長さから見て10枚ある次列の中程かと推測できる。換羽もまだまだ続きそうだ。渡りに間に合うのかな。

追記
翌日、念のために林の中を探してみた。入口付近の笹薮に体羽が一枚引っかかっていた。模様からするとこれもサシバかもしれない。

写真 サシバの羽一対(さいたま市で採集)。
写真 左から
以前Mさんにもらった初列(181ミリ)(野田市で採集)。
以前Hさんにもらった次列S10(131ミリ)(宇都宮市で採集)。
翌日、同じ林で拾った体羽と思われる羽(60ミリ)。 
8月26日
 昨夜、仲間のCさんからシギ・チの情報をもらう。朝5時に起き、Cさんと落ち合って、春日部の倉常へ。夏水田んぼがあって、そこで、ツバメチドリ(幼鳥)をじっくりと見ることができた。三年ぶりだ。他にもムナグロ50、コチドリ10、キアシシギなど。
 満足して早めに帰宅すると、テーブルの上にオナガの羽が一枚載っている。聞けば、私が出かけた後、家の近くで拾ったとのこと。妻もすっかり羽に意識が集中しているようだ。捜さなくても見れば目に入るのだそうだ。なるほど、自然流か。自分などは、そうでないものまで羽に見えてしまうことがあるのでいけない。
 見れば、抜け落ちたばかりの初列風切である。8月の初めにP3を拾った時に、P4以降の羽をどれか拾えるかもしれないと妄想したことがあったが、それが現実になったのだ。『図鑑 羽』に照らしてみると、拾ったのはP5で、予測的中である。換羽の順番通りだ。だが待て、十数羽の家族か同一生活圏にいるオナガの羽であることはたしかだが、そのなかのたまたま2枚の羽が順番通り拾えた、ということに過ぎない。たった2枚が都合よく並んだだけで、喜んではいけない。とにかくこれからも羽を拾ったら、場所と日にちを必ず記録しておこう。

追記
8月31日朝、妻がまたオナガの初列風切を拾った。調べてみるとP6のようだ。たまたま2枚が、たまたま3枚になった。その後しばらくたって今度は自分が、9月18日にP6、9月29日にP7を拾った。同じP6でも2週間以上の差がある。また9月9日には、P6と思われる換羽して間もない成長中の羽鞘のある羽も拾った。およそ半分ほどの長さに達しているので、換羽は8月末ごろか。何かの事故で抜けてしまったのだろう。しかし、こういう場合、あとはどうなるのだろう。すぐに臨時の羽が準備されるのだろうか。

写真 換羽した初列風切りを、時系列に並べると、ほぼ順番に並ぶ。最後に去年のP8も一緒に並べてみる。
① 8/3 P3 ②8/26 P5 ③8/31 P6 ④9/9 P6(換羽中)
⑤9/18 P6 ⑥9/29 P7 ⑧2019/9/19 P8(参考、去年のもの)

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