淡水ガモ類のエクリプス
報告: 大井 智弘

エクリプス(Eclipse)とは
 繁殖を終えたカモ類のオスは8月から10月頃にはメスのように全体が地味な羽衣になる。オスはメスに選ばれる必要がなくなり、外敵から見つかりにくくなる。この時期の羽衣の状態を「エクリプス」という。
 さいたま市緑区見沼自然公園では毎年オナガガモ、ヒドリガモ、コガモ、オカヨシガモ等が越冬する。
今年も9月末にコガモ、ヒドリガモ、数日遅れてオナガガモが渡来してきた。右の写真①は10月中旬のオナガガモとヒドリガモの様子である。
 そこで、淡水ガモ類(ヒドリガモ、オナガガモ)のエクリプスを観察する絶好のチャンスであるこの時期に識別を楽しんでみたいと考えた。しかし、エクリプスについて調べ始めるとわからない事が続出し、まったく自信のない報告となってしまった。間違い等がありましたらぜひご指摘ください。
※ 写真はすべてさいたま市緑区見沼自然公園で撮影
【写真①】2020年10月
1 ヒドリガモ(緋鳥鴨)
 下の写真②は水面を泳ぐ2羽のヒドリガモ、ぱっと見では識別は難しいが、写真③のように頭部と背中をアップにすると識別が可能だ。
【写真②】2020年10月 【写真③】2020年10月
★識別ポイント
(a)前方の個体の方が後方の個体よりも頭や脇の赤味がやや強い。
(b)前方の個体の額に♂特有のクリーム色若干見られる。
(c)前方の個体は背中の灰色の羽も目立つ。
(d)前方の個体の雨覆が白いので♂成鳥エクリプス、後方の個体が♀成鳥。
【写真④】2020年10月 ♂成鳥エクリプス
後ろから見ると体の上面に灰色部が多く生殖羽へと換羽しつつある様子がよくわかる。
 【写真⑤】2019年10月 クリーム色の額がはっきりしてきた♂エクリプス
【写真⑥】 2019年3月 ♂成鳥の生殖羽
【写真⑦】 2019年3月 ♂幼鳥
 ヒドリガモの♂成鳥(左)と幼鳥(右)は、翼と脇腹の間に見える雨覆が成鳥は白色、幼鳥は褐色であることから識別できる。

2 オナガガモ(尾長鴨)
【写真⑧】2020年10月 ♂エクリプス
【写真⑨】写真⑧を拡大
 上の写真⑧を右の⑨のように拡大すると♂エクリプスだとわかる。
★識別ポイント
 (a)胸の部分に白・灰色などの♂生殖羽の特徴が見られ始めている。
 (b)くちばしの両側面が青灰色なのは♂の特徴。♀のくちばしは地が青灰色で黒い。
 (c)頭部は赤味がかっていて、生殖羽ではチョコレート色になる。
【写真⑩】2020年10月

腹も白くなってきた ♂エクリプス
【写真⑪】2020年10月

もうオスの特徴がバッチリ ♂エクリプス
【写真⑫】2020年10月 問題なのはこの個体????
 ★迷いポイント
  (a)くちばしの色が、黒色もしくは灰色一色に見える→だからメス?
   しかし、別のアングルでくちばしをアップにすると、青灰色が確認できたのでオスなのか? 
【写真⑬】2020年10月
 (b)頭部の色はオスの色合いが出ている。
 (c)胸の細かな斑があってエクリプスの特徴がない。
 (d)背中の複雑な白斑が特徴的で、この時期のメスの特徴なのか?
『決定版 日本のカモ識別図鑑』 氏原巨雄・氏原道昭(著) 誠文堂新光社 によると
次のような識別方法が書かれていたので引用する。
・オナガガモ♂♀簡便識別法
オナガガモ♂♀は年齢に関わらず最外三列風切の色で識別可能。♂は黒色で♀は灰褐色から黒褐色。
 
これを参考にすると、
【写真⑭】写真⑫の最外三列風切をアップにすると、黒色であった。
 よって写真⑫の個体は♂なのか。また、くちばしが不明瞭な状態にあることは幼鳥ではよく見られるとも書かれていたので、♂幼鳥ではないかという結論を出してみたが自信はない。
【写真⑮】2017年12月
【写真⑯】写真⑮のメスの最外三列風切をアップ
最後に問題をひとつ
 もう一度下の【写真①】を見て、ヒドリガモとオナガガモのエクリプス、オス、メスの識別にチャレンジしてみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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